ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Ladakh⑨チャン・ラへ

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山の上に雲うっすらだけど、だいじょーぶ!
寒いけど、慣れてきたしマイナスじゃなーい!
肉なし、卵なしのお弁当も持ったー!
(いや、これ、昨日と何もかわってないんだけどね……)
というわけで、パンゴン湖へ出発。

標高4250メートル、塩湖としては世界でいちばん高いところにあるパンゴン湖へはトイレ休憩1回、5時間ほどの道のり。標高5360メートルのチャン・ラという峠を越えて行く。「ラ」はチベット語でもゾンカ語でもラダック語でも峠の意味だ。

へミスを右手に見て左に折れ、山道に入るとどんどん高度が上がっていく。お菓子や飴をわけたりしたこともあってか、ガイドさんとドライバーさんもだんだん打ち解けてきた。
どの国でもドライバーさんはあまり英語が得意でないことが多いのだけれど、ラダックはラダック語が基本でヒンズー語はそれほど幅をきかせていない。夏の間は外国人がとても多いこともあって、みんなヒンズー語よりは英語を話す。
いつも真面目でほとんど笑わないガイドさんに比べ、ドライバーさんはくだらない私の冗談にもゲラゲラ笑ってくれるので、車の中は急に楽しい雰囲気になった。どうやらやっと、ツアーコンダクター+ガイド+ドライバーでお客さん不在のこの旅に慣れてきたようだ。
「2人がいつも話してるのはラダック語でしょ?」
きいてみると
「いえ、ザンスカール語です」
え? なにザンスカールって。昨日その名前がついた川を見たけど、ラダックの奥にある地方とは違うの? 言語があるってことは、もしかして違う国なの?
という、私みたいな人がいるといけないので書いておく。

チベット吐蕃王国が841年に滅亡したその翌年に、中央チベットの豪族キデ・ニマゴンが建国したのがラダック王国ザンスカールは17世紀にこのラダック王国の支配下に入って今に至る。
ザンスカールで話されている言葉はラダックで話されているラダック語と同じく、チベット語のいち方言であることは間違いない。ただ、ラダック語にはあまり見られないウー・ツァン方言が混じっているために、ラダック語のグループに入れるべきかウー・ツァン方言のグループに入れるべきかで言語学者さんたちがいまだ喧々囂々なため、とりあえず「ザンスカール語と呼んでおくか」ということになっているらしい。 「じゃ、2人はラダッキー(ラダック人)じゃないの?」
と、きくと
「いいえ、ザンスカーリ(ザンスカール人)です」
答えるあたりオキナワンな感じだ。

4000メートルを超えたあたりから身体がだるくなり、「車から降りるのめんどくさい病」が頭をもたげてきた。まるで正確な高度計のような身体だ。私がだまりこくってしまったので車の中はラダック語のみだが、後部座席にただ放っておかれるのが妙に心地よかった。

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途中、ガソリンスタンドにてトイレ休憩、ちょっとフラフラしながらも用を足して戻って来ると、ガイドさんとドライバーさんが浮かない顔をしている。
「どしたの?」
訊けば、峠から先へ車が進むのを今日は軍が許可していないらしいというのだ。

映画「JAB TAK HAI JAAN」でシャー・ルク・カーンがインド陸軍の兵士という設定だったことからもわかる通り、パキスタンの実効支配の地であるバルティスタンと中国の実行支配地であるアクサイチンの間にあるラダックは、インドにとって重要な軍事拠点。
いたるところにインド軍がガッツリと駐留していて、奇しくもこの年の5月には中国軍が突如インド国境に軍を展開してドンパチしたものだから、インド側もかなりの軍隊を増やして睨みをきかせていたという事情もあった。レーの空港への民間機の発着が朝だけなのも、民間航空会社とインド軍が共用していて朝方以外は完全なる軍用と化すからなのだ。

同じくレーからパンゴン湖を目指してのぼってきたジープが、このニュースをきいてなのか次々と引き返していくのを見ながら
『あーぁ、パンゴン・ツォにも呼ばれてないのか』
がっかりしてしまったのだが、諦めるのはまだ早い……と思いなおす。
「理由は? 天候? それとも軍事的ななにかなの?」
「そこまではわからないです」
パンゴン湖に行くには、峠を越える以外に道はない。
「峠までは行けるの?」
行けるはずだというので、とりあえず峠に向かってダメな理由をきいてこようとうことになった。

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さびー、さびーのチャン・ラ。一番上に「Indian Army」とある通り軍が立てた看板がある。表にはWelcome to the Chang La とあるが、裏側は(visitとagainの間にスペースがないから何の単語かと思うが)Plese visit againになっている。一番下にある「JULEY」はラダック語でおはよう、こんにちは、さようなら、ありがとう……何にでも使える便利な言葉である。チベット語の「タシデレー」な感じ。