ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Ladakh⑧へミスとサンガム

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帰り道、インダス川ザンスカール川が交わる、サンガムというところで車を停める。
インダス川チベット自治区のマーナサローワル湖のあたりから始まり、ラダックを通ってその後、パキスタンに入ってカラチの近くのアラビア海に注ぐ全長3180㎞の川。このうち約3000㎞はパキスタン領内、160㎞ほどがラダック、残りは中国領を流れている。
今の時期、ザンスカール川ではラフティングが行われていて、インド人観光客がきゃっきゃきゃっきゃいってボートに乗り込んでいたが、冬はこのザンスカール川に『チャダル』と呼ばれる氷の回廊が出現する。
寒さがもっとも厳しい1月中旬から2月中旬までの間、凍結するこの川の氷の上を10日ほどトレッキングしてザンスカールまで行くツアーもあるとのこと。
氷の回廊と聞くとなにやらとてつもなくロマンチックであるが、いくら氷点下20℃でも川がカチンコチンに平均に凍っているはずはないし、10日も吹きっさらのし川っぺりのテントや洞窟に泊まることを考えたら、マイナス1℃でホテルに暖房がないだけで深く後悔する私には無理に決まっている。
しかし、トレッキングの様子を語るガイドさんの目のキラキラ具合からは、自然児のみなさんには相当に楽しいものなのだろうなぁと想像はできた。

黒っぽいインダス川と灰色のザンスカール川。2色の川が青空に映え、さっきの猛吹雪はいったい何だったんだろうという気になる。まるで幻のようだ……などとぼんやり川面を眺めていると
「ヌブラ谷へ行かれなくてかわいそうなので、どこかへ連れていってあげましょう。どこがいいですか?」
ガイドさんが言い始めた。
業界でいう? 代替観光というやつである。
「えー、別にいいよ。川の合流地点も見られたし、もうホテルへ戻って、そこら回遊しとくよ」
普段は分刻み、秒刻みで旅程管理の仕事をしているくせに、自分で旅に出るとただもうダラダラ無為に時間を消費するのが得意技なのだ。
私は良く言えば欲がない、悪く言えば興味のないことにはまるっきり興味を示さないタイプ。もともと観光もそれほど好きではなく(←おいっ!)旅に出て何が楽しいかといえば、あてもなくたださまよってキョロキョロしたり、見たこともない食べものに手をだして痛いメに遭ったり、特に意味もなく街の人と話し込んだりすることなのだ。
どこの観光がいいか? と急に言われたって困るなぁと思ったところでひらめいた。
「ほら、あの王宮で写真の展示をみていたときに、これどこ? って私がきいたところ。あそこがいい! 今から行ける?」
「へミスのゴンパですね。行きましょう!」

https://www.instagram.com/p/BXBe9P6FMhF/

ねずみ色の空にも映える、ブータンチックなへミス・ゴンパ

「今回のツアーには入っていません」
「ああ、そうですか、そんならそれでいいです」
だったはずのへミス・ゴンパは、レーから南東へ45㎞ほど、かつてのラダック王国・王家の菩提寺でラダックで一番有名なお寺だそうな。

チベット仏教にはダライ・ラマパンチェン・ラマ筆頭のゲルク派、分派の多いカギュー派、クン氏から生まれ、アメリカ、シンガポールや台湾にも教線を拡張しているサキャ派、代表が世襲制ニンマ派の4つの派がある。

へミスはカギュー派の分派の1つであるドゥク派に属している。
「ドゥク」とはチベット語で竜の意味。察しの良い人はもう分かったと思うが、竜の国・ブータンを指す「ドゥルック」と同じ言葉であり、ブータンの国教は当然この宗派だ。
王宮でへミス・ゴンパの写真を見た時に、とても美しいと思うと同時にものすごく懐かしい感じがした。
ブータンのゾンにそっくりなへミスのゴンパに、私はきっと「呼ばれ」たのであろう。

https://www.instagram.com/p/BXa4gN-nAAP/

へミスのゴンパには本堂が2つあって独特の造り。数百人の僧侶が修行しているとかで、てっぺんに登って見渡すとこんな感じでお坊さんのすまいが山肌にへばりついている。


「明日こそ、パンゴン湖に無事に行けますように」
ぐりぐりお目々の巨大なグル・リンポチェにこっそりお願いをしておいた。