ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

ごはん食べた?

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「だんだん春めいて来たねぇ」とか「今日はまたいやに雨が降りますなぁ」日本人なら気候や天気ではじまる世間話だけれど、台湾では替わりに
『吃飯了没?(ちーふぁんらめい?)』

ごはん食べた? である。

昔、食べ物があまり豊富でなかった頃の名残ともいえる挨拶がわりのこの言葉、馴れるまではちょっとびっくりするかもしれない。
近所のおじさんとすれ違って「こんにちは」と声を掛ければ、返ってくるのは
「ごはんすんだ?」
電話をかけて自ら名乗った後、相手から最初のことばは「元気?」ではなく
「もうごはん食べた?」
なのである。
電話の場合は「まだ食べてない」と答えても
「それなら早く食べなさい」と言われるだけだけれど、近所のおじさんは
「それなら私の家によって食べていきなさい」
ただの挨拶だったのに、昼食に招待されてしまったりもする。
だから、顔を突き合わせて聞かれた時には、たとえ食事がまだでも「もう済みました」と答えるのが礼儀のようなのだと学んだ。

随分慣れても、朝10時や夕方4時の「吃飯了没」には少しとまどう。朝食なのか昼食なのか、はたまた夕食なのか、どの「ご飯」をさしているのか微妙な時間帯。
でもこの言葉、『私はあなたに対して関心があるんですよ、心配しているんですよ』という意味であって、本当に食事をしたかどうかはあまり関係がないのかもしれない。
その証拠に初めて会った人や、知らない人にはあまり聞かれたことがない。

天気の話より少しだけ温かい台湾の『吃飯了没?』挨拶だが、台湾だけではなく香港でもシンガポールでもマレーシアでもいわゆる中華と呼ばれる人達の間で普通にかわされる。
ところがこれ、中華でもなんでもないインド人も言うんである。
「ご飯食べた?」
えーーっ、インドもなのか! 思わないでもなかったがアジア生活はそこそこ長い。相手を気遣ういつものやつだなと思い、すまして
「うん、食べたよ」
答えると、次の質問は
「何食べたの?」
なのである。えーっ、内容必要? そう来ると思わなかったのでどぎまぎしながら
「味噌汁とごはんと、野菜と魚……」
などとぽつりぽつりと答えると、今度は
「写真送って!」
えーっ、写真も必要だった? 撮ってないよ~である。

インド人は通りすがりの人でも「どこから来た? 名前はなんだ?」をセットで訊いてくる。インドを回遊していると
『私の名前は冒険小僧です、チベットから来ました(←おいおい!)』
とかいたTシャツでも着てやろうかと思うくらい、会う人会う人に同じ質問をされてイライラするのだが、「ご飯食べた?」も「何してんの?」もこれらと同じ興味丸出しの延長線上にあるような気がする。
それが証拠に「まだ食べてない」といっても、早く食べろとかウチに来て食べろではなく、やっぱり「何食べる(予定な)の?」だ。

私は肉と卵を食べない”なんちゃってベジタリアン”なので、「何を食べたか?」と訊かれると大抵なんらかの魚を答えることになる。
「小僧はいっつも魚ばっかり食べてるねー」
インド人に指摘されるが、大きなお世話なんである。くやしいので
「ご飯食べた? で、何食べたの?」
攻撃をインド人にしてみると、答えはいつも
「うん、カレー」

君たちに「ばっかり食事」とか言われたくないよ!
そして、いつ誰が送ってくれたんだか思い出せないような、似通ったカレーの写真ばかりがスマホの中に増えていくことになるのである。