ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

今日はいい天気

添乗員とガイドに絶対に向いていない人というのがいる。どんな人かといえば「雨女」と「雨男」である。

どんなに優しくて気が利いてキビキビ仕事をしても、どれだけ知識があって話が上手くて楽しくても、「雨女」と「雨男」は間違いなく嫌われる。

私は雨にあまり縁がないけれど、実は「暑小僧」なんである。冬の凍てつくロシアであろうと、厳冬のヨーロッパであろうと、どこへ行ってもそこを暑く(温く)してしまうのだ。
あらかじめ「暑小僧」であることは自己申告しておくので
「昨日まで猛吹雪だったのに、今日は不思議と温かい」
モスクワやブリュッセルのガイドさんに言われるたび、お客さんはゲラゲラ笑いながら
「添乗員さんのおかげだね!」
言ってくれるのだが、私が不在の日本では大雪で首都機能が麻痺していたりする。

寒いところがもともと苦手で、気温が7℃を下回ったらもう労働意欲を完全に喪失するが、暑い分には40℃越えてもまったくへこたれない。
灼熱のシルクロード
「昨日まで30℃前半で過ごしやすかったのに、今日は特別暑い」
などとガイドさんに言われると
「あー! 添乗員さんのせい!」
一斉攻撃は受けるものの、50℃近いということはたいていの場合は晴れているのである。
ちょっとぐらい食事がマズかろうが、ホテルのシャワーが人肌ぐらいの暖かさであろうが、お天気に恵まれて青い空に映える写真が撮れる毎日であればほとんどはオーライなのだ。
「恵まれすぎた感がありましたね」
ニヤニヤされることもよくあるけど……。

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この地方を12日に私が去ると天気予報は……こんな感じ。 にしても晴れでも曇りでもなく温度計って、もはや天気予報でもないよね、これ。

天気予報に温度計が並び連日の40℃越え。
「昼間は暑くて溶けるといけないので外へ出ないでください。夜は暗くなると危ないのでホテルから出ないでください」
ガイドさんからキツク言い渡され、『じゃぁ、いつなら外を回遊していいんだ?』な毎日を過ごしていた6月のインド・ブッダガヤ。
「今日はいい天気だねぇ」
ホテルの外で上を見上げながらガイドさんが言うので、つられて視線を空に向けると灰色でどんよりと曇っていて、今にも泣き出しそう。
『え? これのどこがいい天気?』
思いはするが、確かにざっとひと雨来るとオーブンかなにかのようにカンカンに熱された大地にしゅーっと雨水が吸い込まれて湯気がたち、その後はほんの少しの間だが涼しくなる。サウナの打ち水みたいな感じと思ってもらえばいい。
なるほど、ここでは雨が降りそうな天気を『いい天気』というのかと、妙に納得した。

日本人は雨が降るとすぐ傘をさすので、いつもスーツケースではなく手荷物に雨具を用意してもらうようにお客さんにはお願いしている。
不意の雨に勝ち誇ったようにみんなで傘をさして歩いていたら
「なんで傘なんかさすんだ、縁起が悪い。そんなことしたら雨がやむだろ!」
ロッコ・ワルザザードでは叱られた。
サハラ砂漠を抱えるロッコでは、雨はいつだって「恵みの雨」なのである。

7月に入った頃から、こんな動画がたくさんインド・ラジャスタン州の友人達から送られてくるようになった。

延々と大粒の雨が降っているだけの映像なのだが、タール砂漠のど真ん中、オアシスの街に住む彼らにしたら
「みてみて、モンスーンでこんなに雨が降ってるよー。嬉しい!」
ということなのらしい。
雨の中、沙漠の街をヌカヌカになって歩くのは大変だろうに……。
そして
「”いい天気”が続いてるから、こっちに遊びにおいでよ! 小僧が来ればきっと、もっといっぱい雨が降るよ!」
「暑小僧」の私に言うのである。
いや、雨止まって間違いなくカンカン照りぶり返すから……。