ツアーコンダクターは奴隷?
この前、ツイッターで読んだバスの運転手の話。
「トイレどこ?」
イスタンブールの空港の搭乗口で尋ねられたが、すぐ近くに見当たらなかったので空港係員に一番近いトイレの場所を訊いた。「わかんない」という答えだったので、また違う人にきこうとしたら
「添乗員のくせに、搭乗口付近のトイレの場所も知らないのか!」
叱られたことがある。
世界じゅうの空港の毎回行くわけではない搭乗口付近のトイレの場所を、現地の地上係員が知らなくても日本人添乗員は把握しているべきだと思われているのだということに唖然とした。
日本人が外国人には寛容で、同国人にキビシイことは知っているけれど、それにしても恐ろしい過剰要求ではなかろうか。
上記ツイッターでの発言を引用して書いた違う記事では
と結論に導いている。
いうなればイスタンブールの地上係員だって特定の搭乗口のトイレを知らなくても主な業務ではないから仕方ないし、教えてもらえれば「知ってる人で良かった、教えてもらえてありがたい」となるのだから、これはこれで別に何の文句もない。
先日も添乗員仲間が「お水も飲めない~」とお客さんが言うので、自分のホテルの部屋からペットボトルの水を提供したものの感謝の言葉はなく、かわりに荷物の計量器を持っていないと言ったら
「添乗員なら、普通持ってるでしょ!」
ツラく当たられたとボヤいていた。
「なんでも当然、そうでなければクレーム」が当たり前の世界で暮らしているツアーコンダクター(添乗員)。
では、その主な業務とはなんぞやということになろう。
日本添乗サービス協会発行の「旅程管理研修教本」によると、基本的な仕事は2つ
- 旅行会社が取り扱う旅行の旅行団体に同行して、旅行計画に従って、旅行客が交通機関やホテルを利用できるようにするなど、旅行の確実な実施をすること
- 同行する旅行客がその旅行を楽しみ、満足感をもつことができるように、旅行客を案内し、旅行客と交流すること
1.の旅程管理は実にメインの仕事だけれど、2.はあまりにも広くてあまりにも曖昧なんである。
今まで私がもらったクレームの中で
「はっ?」
ぽかーんとしてしまったものに
- 添乗員のくせに食事をしていた
- 添乗員が飛行機の中で寝ていた
- 添乗員が夜のお相手をしてくれなかった
というのがあるのだが、たとえば上記のせいで満足感をもつことができないという相手の場合、これをかなえて飛行機の中でも不眠不休で、滞在地でも断食し、売春婦? の斡旋も業務だからせねばならないのが添乗員ということになるではないか。
なんでこんなクレームが来てしまうのだろうと考えていたのだけれど
「添乗員は奴隷と一緒、使わないと損」
先日、お客さんが言っていたのをきいて合点がいった。
お金を払ってあるのだから、元をとらなくちゃ……まるでバイキングの食事かなにかと同じように添乗員のことも考えているのだろう。
だから、寝ているヒマがあるのなら、食べているヒマがあるのなら、私達のために仕事をし続けるべきだ! という考えにいきつくのだ。
しかし、バイキング形式のレストランにも営業時間という決まりがある。
過剰にとって食べきれなくなる、セルフコントロールのできないお客さんが目に余れば
「食べ残した場合は罰金をいただきます」
基本ルールが守れない人が多くなれば、
「持ち帰りはご遠慮ください」
但し書きをする店もあるはずだ。
以前、ヴェニスで夕食を全員で終えた22:00過ぎ。
「添乗員さん、リアルト橋まで連れてって!」
リクエストがあったので、「では、みんなでそぞろ歩きますか~」となってホテルとは反対方向だったけれど、散歩がてら行ったことがある。
日本で考えれば遅い時間だけれど、もともと夕食の開始が遅めのイタリアだし、ヴェニスは迷路のような街なので、私は何も気にしていなかった。
ところが翌朝、リクエストをしたお客さんから
「昨日はワガママ言って、ごめんなさい」
謝られてしまってこちらがびっくりした。きけば、日程表に
という旨の記載があったことに気がつき
「ワガママ言ったのに、嫌な顔もしないで付き合ってくれて嬉しかった!」
逆に喜んで貰えた。
こんな一文が日程表に入っている会社もある。
この会社の場合、添乗員の仕事は旅程管理に万全を尽くすことなんである。一定の休憩時間を勤務中とらせますよと宣言しているので、食事をとっても大丈夫だし、女郎の斡旋は絶対に旅程管理ではないのである。
昨今、添乗員の給料に時給制を採用する旅行会社が増えてきたが、時給制の場合、飛行機移動のほとんどの時間、添乗員は無給であること。ホテル出発の30分前からしか給料が発生しないので、ビュッフェスタイルの朝食の場合のお手伝いも担当者からの指示がなければ無給であることなどを、最低でも周知させておくべきだと思うのだ。
飛行機の中で出入国書類の書き方や現地のフリータイムについて相談を受けたり、朝食会場で「カプチーノとマキアートの違い」を添乗員さんが説明していたりするのが、すべて「ボランティア」であると分かれば、飛行機で寝ているのもむしろ当然だとお客さんも理解ができるのではないだろうか。
はっきり言わせてもらうが、ツアーコンダクターは奴隷ではない。
人として自尊心と誇りを持って仕事をするためにも、添乗員の仕事にもある程度の『くくり』と『決まり』が必要であると私は思いはじめている。