ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

乾爸⑤ 懐華への列車

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買物を終えて駅に戻ると、ふと「求人広告」の立て看板が目についた。運転手やら事務員やら、いろんな商売が書かれていたけれど、だいたい一ヶ月四百~六百元くらいの賃金が多かった。四百元、約七千円だ。
列車は239次17:42発の張家界行き、懐華までは十一時間の道のりである。
駅の構内へ入る段になって、やはり70㎏の荷物はどう考えても重い。荷物預けから取って来たはいいけれど、身動きが取れない。うんうん唸りながら荷物を引きずっていると、どうしてもバランスを崩してコケてしまう。すると、そのあたりを行く人達が私がコケた様子を見てゲラゲラ笑う。
あのなぁ……。どうして、そこで笑うかなぁ。
中国人がコケた私を見て笑う。なんだか非常に不快であった。
結局ポーターに、ひとつ五元で列車の中まで運んでもらうことにしたのだが、竹ザオで二つの荷物を肩に担いだポーターでさえ大汗である。
「こんなに重たい荷物、運んだことがない」
そりゃぁ、そうだろう。君の体重くらいは軽くあるよ。
細くてひょろりとしたポーターを見て私は思う。
さて、乗車という段になって、肝心の改札が開いていないのである。せっかく体の不自由な人専用の待合室に入口があるというのに、そこが開いていなくちゃどうにもならない。
結局また一般の人の改札口に戻り、係員に切符を見せてやっと入れてもらう。
いったい、どういう仕組みなのだぁ!
ポーターがえっさほいさと籠かきのように電車を目指し、がんばーは相変わらずのよちよち歩き。電車になんとかたどりつくと、乗客も乗員もみんな
「大丈夫ですよ、慌てなくていいですからね。ゆっくりゆっくり」
などと声をかけては道をあけてくれ、気を遣ってくれる。
私が駅で笑われたのは、何だったのだろう??

四つの寝台があるコンパートメントの中は暖房が効いていて暖かい。馬鹿デカイ荷物をはそのままコンパートメント内の床に置かれたが、今度はポーターが
「これで十元じゃ少ない」
とガタガタ言い出した。
そうは言っても、「ひとつ五元」と値段を決めたのは私ではなくてポーターである。
「だって、さっきそういう約束だったじゃない」
私は抵抗したのだが
「こんなに重いのははじめて担いだ」
とかなんとか言いながら、ポーターも立ち去ろうとしないのである。
仕方なく二元の札をさらに渡したが、それでもブツブツ言うので無視することにした。

そのうちもう一人男性が乗って来てコンパートメントは満員となった。あまりにも大きな荷物がでんと場所を占拠しているのと、私とがんばーが叫び合うような大声で話すのとで、この男性も面食らったようである。
「大陸に何をしに来たのだ?」
と聞かれてしまった。これこれこういう具合でがんばーが帰国して定住することになったと話せば
「なるほどぉ」
とうなずき、それからは大声も大きな荷物にも何の文句も言わずにおいてくれた。
備え付けのポットでインスタントラーメンを作ってがんばーに食べさせると、がんばーはいつのまにか眠ってしまった。私も日記やメモをつけると早々に布団にもぐり込んだ。

暖房がききすぎていたのだろう。乾燥しているのですぐ目が醒めるのか、がんばーは夜中に何度も私を起こしては
「今何時だ?」
とさかんに気にするのである。乗り過ごしては大変と思っているのだろうが、ちゃぁんと車掌に起こしてくれるように頼んであるのだ。
「大丈夫、大丈夫。まだ着かないから」
そんな風に言って聞かすのだが、こうやって大声で話しているので、もう一人の男性の眠りを妨げるのではないかと……そればかりが気になった。