ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

積み残し放題

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「積み残し」という言葉をきいたことがあるだろうか?
まるで荷物の運搬のようではあるが、お客さんを置き去りにして出発してしまうことをギョーカイ用語でこう言うのである。

集合時間にお客さんが戻って来ないので相当捜したが、先の予定もあるし、何時間も待っているわけにはいかないので会社に連絡の上で出発した。
これは積み残しではない。「迷子を出した」という。
迷子にならないようにちゃんと説明しなかったということで、たいていは添乗員のせいになる。

積み残しが発生するのは、数え間違いと勘違いだ。
国内でそれこそ、毎日、毎日日帰りツアーに連続で行った日には
「あれ? 昨日は46名だったけど今日はたしか44名だったよね。うん、そうだよ、そうに違いない」
7日目くらいには朦朧とした頭がこんな風に誤作動をしてしまい、44まで数えたところでドライバーさんに
「おそろいです」
って言っちゃったら、実は今日は45名だった。
とか、
井の頭公園の前の路上で46名数えたつもりだったのだけど、あとから考えたら通行人も数えてたみたい。路上駐車のバスにいっせいに乗り込んでもらって、慌ててバス発車させた。
とか、人間なので起こるのである。
どこからが積み残しかというと、国内ではドアを閉めて1mmでもバスが動いた時点ということになっているので、
「すわっ、二人足りない!」
数メートル動いたところで気づいて、大慌てで井の頭公園へ戻り、集合時間を間違えていたお客さんと無事会えた!
……とかいっても、立派な積み残しである。

遅刻、寝坊にならび「添乗員3大悪」のうちのひとつとされるこの積み残しだが、イタリア人をガイドする通訳案内士の知り合いから面白いことをきいた。
たとえば、浅草で浅草寺を案内をしてフリータイムを取る。集合場所に集合するのは20人いたら10人程度。バスに乗ってスカイツリーへ向かうのだが、また案内してフリータイム後に集合すると5人くらいになり、ホテルへ着く頃には
「そして、誰もいなくなった」
になっていることもあるんだとか。もちろん、誰ひとりとして「集合場所にはいかないですから」などと連絡もしてこない。
イタリア人の添乗員さんも
「あ、いいんです、いいんです。イタリアはそういうシステムですから、来なければ気にせず私達は行きましょう」
涼しい顔なのである。

イタリア人が時間を守れないのは知っているけれど、集合時間に現れなくても捜しもしないのには驚いた。
「イタリア人は積み残し放題」でいいらしい。必然的に迷子も出さない(出ない?)のである。
自由すぎるんじゃないの? と思わなくもないが、自己責任が徹底しているのだともいえよう。

「痴呆気味なのに、なぜ目を離した?」
担当者から叱られることも多く、いつもいつもお客さんの動向を気にしている私からすると、痴呆ぎみのイタリア人がホテルに帰れなくなったりすることはないのかな? と疑問も浮かばないでもない。
痴呆でも海外旅行に行くんだから、ホテルに戻れなくなっても自己責任……イタリアでは、きっとこういう考え方になるのだろう。