ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

㉑Pさんの『賢いレポシの使い方』

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DPF・日本人 身体の調子の悪い時に乗務を休むことを『レポートシック』と言います。 日本人はみんな『レポシする』という動詞、もしくは『レポシを貰う』というような使い方をします。 レポシするには会社の社員証、保険証のような小冊子にクレジットカードのようなカードが必要で、これさえあれば会社の提携しているどの病院に行っても診療と投薬が無料です。これは香港だけではなく、休暇中に訪ねた国の病院でも、会社に請求を回してもらえるとても便利な代物です。

診察で医者が乗務に適していないと判断すれば、『シックリーブ』という休みが与えられます。このシックリーブの日数を会社に報告すれば、完璧にフライトはロスター(日程表)から削られ、後は家で静養するだけです。 レポシをして香港から国外へ出るのは禁止されています。そうでもないと家に用事があるからと、ニセのレポシをして国へ帰ってしまう人が続出するからです。でも香港を出る必要のない人、例えばボーイフレンドが香港に居たり、香港での友達の結婚式などでは、このニセのレポシが役に立ちます。 以前は日帰りの便ではアローワンスが支給されなかったので、飛行時間の長い名古屋への日帰り便などは、レポシする人が15人中10人などということもあって、この便のある日はスタンバイ(自宅待機)のクルーが駆り出されることもしょっちゅうでした。 会社も考えたらしくて、1年間レポシをしない人に『トランプカード』というご褒美を出すことにしました。これは1年に1回だけ、好きな日の好きな便に乗務出来るというものですが、みんなの大好きなクリスマスや旧正月に、全員が乗務出来るはずもないことが分かると、風邪気味なのに無理して仕事に行く人がいなくなっただけで、もとの木阿弥でした。

腰痛、生理痛などが、ニセのレポシを貰うための効率的な口実でしょう。医者もはっきりと診察出来ないのですから。医者の方も心得たもので、 「何日必要ですか?」 なんて聞いてきたりします。例えば3日パターンのフライトを持っていて、下手にレポシして2日のシックリーブを貰ったりすると、最後の一日をスタンバイにされて(こういうスタンバイは呼び出される率が非常に高い)、しかも1日ということは日帰り便なので、薮ヘビになり兼ねないのです。だから堂々と 「3日必要です」 と答えた方が賢いのです。 ただ、このような医者に本当に病気の時にかかると、『ヤブ医者』ならぬ『土手医者』で見通しが悪く、一向に治らないので気をつけないといけません。

先ほどの書類は会社の医療保証ですから、有給休暇などで海外に行く場合、家に帰る場合など常に持って行くのが普通なのに、これを香港に置いていく人がいます。私が一緒に住んでいた台湾人ルームメイトです。 もう彼女はとっくの昔に退職してしまったので、こうして書いても迷惑はかからないと思います。乗務の前日までに、香港に戻らないといけない規則なのに、当日帰って来るのは当たり前でした。 当日のその便が台風のせいで香港に着陸出来なかったりすると、彼女から電話が掛かって来ます。 「私の部屋の引き出しに書類が全部入っているから、代わりにレポシしてくれない?」 これにはさすがの私も驚きました。彼女の代わりにニセの健康な人物を病院へ行かせ、ニセのシックリーブを貰って来てくれというのです。大胆な発想です。

時折コーディネーターによる、『パスポートチェック』が行われるので、これにひっかかればひとたまりもありませんが、こういう人に限って新しくパスポートを更新してすぐにこのチェックが入り、何ともなかったりします。強運の持ち主はどこまでも強運なのでしょう。 他にも『仕事に行くのを忘れていたから、急いでレポシした』とか『スワップしようと頑張ったけど出来なかったから、ボンベイ便をレポシした』という会話もよく耳にします。 ひどい話になると、結婚が急に決まって結婚式の日に休暇を申し込んだにもかかわらず、申請が遅すぎたとかで休暇を貰えなかった。そこで仕方無くレポシをする為に医者に行ったがシックリーブも貰えず、やむなく朝早い日帰り便をこなしてから、自分の結婚式に飛んで帰った人も知っています。 何かの都合で飛行機が遅延したりしたら、花嫁不在の結婚式になっていたかと思うと、他人事ながらハラハラします。

最近は毎回の乗務のメンバーのリストが、コンピューターで調べられるようになりました。4000人近くの乗務員が居るので、中にはウマが合わなかったり、意地悪で有名な人もいます。スワップやレポシで苦手な人との乗務をうまく避けたつもりが、当の相手も同じフライトへとスワップしていて、結局かち合った。などという笑い話のようなことも起こっているようです。

現在は、経費節減のために日帰り便がぐんと増えたのにもかかわらず、レポシが激減したようです。それというのも飛行時間に合わせて、日帰り便にもアローワンスが支払われるようになったからです。ホテル代を考えれば、会社もその方が良いのでしょう。 クルーもゲンキンなら、皮を切らせて骨を切る、会社側も賢いというところでしょうか。