Begum Jaan
ヒンディー映画「Begum Jaan」(2017)
配役:
Begum Jaan役:Vidya Balan
Rubina役:Gauhar Khan
Gulabo役:Pallavi Sharda
Shabnam役:Mishti Chakraborty
Laadli役:Gracy Goswami
Surjeet役:Pitobash Tripathy
Salim役:Sumit Nijhawan
Master ji役:Vivek Mushran
Hari Prasad役:Ashish Vidyarthi
Ilias Khan役:Rajit Kapoor
Raja saab役:Naseeruddin Shah
ネタバレしない程度のあらすじ:
舞台はインド・パキスタン分離独立のプロセスが進む1947年のパンジャブ。
ベナレスに嫁いだものの夫と死別後は売春宿に売られたBegum Jaanがパンジャブで営む娼館には、彼女同様に凄惨な半生をおくってきた女性たちが共同生活しており、元警官で用心棒のSalimやポン引きのSurjeetも住む。
分離独立(パーティション)により、無理やり引くことになったインド・パキスタンの国境線がBegum Jaan(ヴィディヤ・バーラン)が営む娼館の中庭を横切ることになったため、館は政府から立ち退き命令を受けるが、立ち退く気のないBegum Jaanと政府役人が衝突。すでに起きた分離独立による暴動でそれぞれ家族が悲惨な目にあったインド側・パキスタン側代表の二人の政府役人は実は幼なじみだ。
これまで娼館に便宜を図ってきた藩王Raja(ナシーラディン・シャー)にBegum Jaanは立ち退きを取り消してくれるように頼み、Rajaも手を尽くしたものの今回ばかりはどうにもならないので立ち退くようにと言われてしまう。
どうしても納得のいかないBegum Jaanの態度はさらに硬化し、どうせなら乞食ではなく女王のように死んでやると対峙を決める。Begum Jaanは娼婦達に娼館を去るように伝えたものの、みな一緒に戦うといって居残ってしまう。
かたくなに退去命令を無視するBegum Jaanに手をやいた政府役人はヤクザにどんな手段を使ってもいいと依頼。ヤクザはポン引きSurjeetを殺害したり、Begum Jaanの可愛がっていた犬を料理して娼館に届けて食べさせたりと嫌がらせをしたあげく、とうとう娼館と用心棒のSalimに火を放つ。
小僧的視点:
焼け出されたBegum Jaanと娼婦達はヤクザと、様子を見に来た政府役人の二人の前で彼女たちは微笑みながら燃え盛る娼館の建物に戻って行って館の扉を閉める。
ラジプートの歴史に残るPadmavatiにならい、彼女達は炎に包まれる……Padmavatといい、ここのところJoharモノ(←なんだその括りは!)によく巡り合う。
サティといい火葬といい、インドではアーリア人の拝火信仰を起源とする古い神でもある、火の神様アグニの存在感がとても大きい。
分離独立にからむ映画は数あれど、虐殺行為や混乱を国境線が中庭を横切るという娼館を舞台にすでに虐げられていた最下層の女性たちの視点で見つめることにより、ホームレスがなぜ多量発生したのかといった背景も読み取れる。
また、とても印象深かったのは、役人が立ち退きを宣告するために娼館を訪れるシーンで、キレかかったBegum Jaanが吐いた「ブラフマ(最上位のカースト)だろうと娼妓を抱くだろう。カーストも菜食主義者も宗教も関係ない!」という台詞。そして、二人の役人が「ヒンズー教徒、モスリム教徒」という風に人々を分ける(パーティション)シーンでそれを一瞬躊躇したところだった。
確かにパキスタン独立の時に、モスリムはパキスタンへヒンズーはインドへという移動が行われたはずなのだが、もとをただせばみな人間なのだという根源に改めて気づかせてくれもした。ベンガル映画の焼き直し作品なだけに、お気楽ぱっぱらぱー、イェーイ! な内容ではないけれども、冒頭のレイプ未遂事件が最後に腑に落ちるあたりもふくめ、大変奥の深い良い映画だと思った。
Ranishwar block (Jharkhand)
ストーリーとしてはパンジャブなのだけれど、80%の撮影はジャルカンド州Dumka県のRanishwar blockという西ベンガルとの州境から10Kmほどのところで、残り20%がデリーとパンジャブにて行われた。
もともとマハラシュトラ州で行われる予定だったこの映画だが、ジャルカンド州で撮影することにより製作費の25%(5千万~1億ルピーと推定される)の補助が受けられることになっていたらしい。が、実際には2千万ルピーも出なかっただの、騙されただのと、ごちゃごちゃした記事が散見されるのがとてもインドである。(途中で誰かのポッケに入ったりしてしまったのかもしれない?)
なぜ、州から補助金が出るのかといえば、撮影による雇用機会の拡大と観光産業発展という枠組みだ。この映画でも、350人の芸術家がDumkaから起用されている。
インドでは二番目に経済水準が低いジャルカンドしかり、隣の最貧州ビハールしかり、これといった産業がまだ育っていないながら自然あふれる地域は、こうして映画を通した観光客誘致、雇用創出といった作戦に出るのも悪くない。
ロケ地巡りたい病としては、Begum Jaanの娼館を訪ねたくなってしまうところなのだが、どうやらセットを築いての撮影だったようで……まことに残念。
その後の管理が大変だから仕方ないのだろうが、こういうセットも壊さずに置いておいたら、私のようなすっとぼけた輩が、極東から遠路はるばる観光に来る可能性だってなきにしもあらずなのに……とか思ったりはする。
この映画が観られるサイト:
https://einthusan.tv/movie/watch/kdHt/?lang=hindi
参考資料:
Srijit film gets grant from Jharkhand