ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

⑬Hさんの『サイドビジネス』

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DBC・台湾人

会社に入った時に『アルバイト禁止』と言われたような気がするのだけれど、テレビのコマーシャルには、この間一緒にフライトした男性のEYパーサーが、クレジットカード片手ににっこり微笑んでいた。
この間、街でスカウトされてモデル事務所について行ったら、ものすごい数のキャビンクルーが登録していて、壁に貼ってある宣伝用の写真はどれも知っている顔。まるで会社に居るみたいだった。
他にも時計や布製バッグの店を香港に持っている人、カナダのバンクーバーに、中華料理の店を何軒も経営しているチーフパーサーもいる。いったい何がアルバイトで何が本業なんだか……。
どうせわからないのだから私も事業を始めることにした。
手始めにまずは、お酒をこっそり持って帰ることにした。台灣の税関では私達がクルーとわかると、バッグの中をいちいち調べたりしないから、少し重たいけれど一人で10本くらいのブランデーを空港の免税店で買って、台湾で業者に売る。香港から台灣はたった1時間のフライトだから、月に3回は帰れる。業者に買ってもらう金額と、免税店でクルー割引で買う値段の差額で儲かるから、4回くらい帰れば給料と同じくらいの金額が入る。 でも、捕まると危ないからこれは1年くらいでやめた。

次は日本のお米が値上がりしたって聞いたから、香港で日本のお米に似ているカリフォルニア米を買って、日本のフライトの度に持って行って日本の友人に売ったけれど、お米もお酒と同様に重いし始めてすぐ持ち込む重量が制限されたから、米不足の解消とともにやめた。5キロやそこらじゃ大して儲からないもの。

その次は日本で当日発売の雑誌や漫画を買ってくるビジネス。当時、台湾は著作権の規制が甘かったから、日本の雑誌そのものをプロのカメラマンと翻訳者がねじり鉢巻き、約3日で中国語版のコピーを作りあげる。
これはけっこういい商売だった。雑誌や漫画はかさ張らないし法律的にも安全だった。でも問題は、発売日に日本のフライトを必ず貰えないということ。

だから次はにんにく。台灣でにんにくが不足して、キチガイみたいに値上がりしたから、急いで香港の八百屋に走って山ほど買った。香港のにんにくは中国大陸のだから、別に値段も変わっていなかったし安かった。ただお母さんを喜ばせようと思って、このにんにくをお土産に持って帰ったんだけど
「どうしてもっとたくさん買って来ないの?私が近所の人に売りさばいてあげるのに」
なんてお母さんまで協力してくれて、商売上手は母ゆずりだったんだと気づいた具合。
しばらく、にんにくを大量に運んだけど下火になって来た今、私が取り扱っているのはしいたけ。乾燥しいたけは台灣では高級品。けっこう高く売れるし、腐らなくて軽いのがいい。
香港のクルーの家で、ダンボールに入った山のような野菜や乾物や化粧品が積んであったとしても驚かないでね。大切な商売道具なんだから。
サイドビジネスでの報酬が、給料をはるかに上回るようになると、あなたも立派な香港クルーといえるだろう。