ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Bioscopewala

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ヒンディー映画「Bioscopewala」(2017)
邦題:「ビオスコープおじさん」

配役:

Rehmat Khan役:Danny Denzongpa 
Minnie Basu役:Geetanjali Thapa 
Robi Basu役:Adil Hussain 
Wahida役:Tisca Chopra 
Ghazala役:Maya Sarao 
Bhola役:Brijendra Kala
Shobita役:Ekavali Khanna 
航空会社のスポークスマン役:Ivan Rodrigues 
Bakht Rawan役:Shashi Bhushan
Zadran役:Mir Sarwar
Security Officer役:Ahmer Haider

 

ネタバレしない程度のあらすじ:

 コルカタに住む写真家Robi Basu(アーディル・フセイン)は、コルカタの空港からアフガニスタンへ飛び立つ直前、パリに留学中の娘Minnie Basu(ギタンジャリ・ターパー)に電話をかける。しかし、Minnieは忙しさにかまけてその電話に出なかった。

ところがRobiが乗った飛行機は墜落、帰らぬ人となる。あわててパリからコルカタへ戻って後処理に追われるMinnieのもとへ、Robiが長年保釈を要請していたRehmat Khan(ダニー・デンツォンパ)が「恩赦で釈放された」という知らせが入る。
「Rehmat Khanっていったい誰? なぜ私が身受けするの?」
理解できないMinnieにRobi の助手であるBholaの説明により、Rehmat Khanが幼い頃にかわいがってくれた「ビオスコープ(のぞきカラクリ)おじさん」だということをMinnieはやがて思い出す。

Rehmat Khanは殺人犯として服役していたのだが、ゆかりの人々を訪ね歩くうちに彼の歩んできた人生、”殺人”の背景と真実を知り、父の遺品の中にあった手紙や自らの記憶を頼りにRehmat Khanの娘を探しに彼らが昔住んでいたアフガニスタンの村を訪ねるのだった。

 

 

この歌、とても好きだ。

小僧的視点:

Rabindranath Tagore(ラビンドラナート・タゴール)原作の「Kabuliwala(邦題:カブールからきたくだもの売り)」を元に作られた映画は、Balraj Sahni(バルラージ・サハーニ)が主役を演じた『Kabuliwala(1961)』が有名だが、その映画からインスピレーションを得て創られた作品。
日本語のタイトルは”ビオ”スコープとなっているようだが、実際はバイオスコープが正解。歌の中の歌詞もそう謡っている。

 

ダメダメな神さま? Rabindranath Tagore

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Rabindranath Tagore(ラビンドラナート・タゴール)は、インドのベンガル地方コルカタの名門の家に1861年に生まれた。
写真を見るとなにやら神さまっぽいいでたちであるが、子供の頃は英国式の厳格な教育に馴染めず学校を3つもドロップアウト。17歳で英国留学をするも卒業はできず。
なのに1901年、宗教家の父が道場を開いていたカルカッタの北西・シャーンティニケータンに野外学校を設立。その後、この学校は1921年に大学となり、1951年にはインド国立大学とされ、現在はヴィシュヴァ・バーラティ国立大学となっている。
ダメダメな神さまは実は教育者であり、インド独立にもけっこう加担するものちに政治から身をひいている。

8歳の頃から詩を作り始め、小説、戯曲のほか、音楽、絵画、思想、哲学など、タゴールの優れた才能はあらゆる方面に及び、インド国歌「Jana Gana Mana」やバングラデシュ国歌「我が黄金のベンガルよ」の作詞作曲者としても有名だ。
自らの詩を英訳した、“神への捧げ歌”という意味の「Gitanjali(ギタンジャリ)」で世界的な名声を得て、1913年にはアジアで初のノーベル文学賞を受賞。今回のMinnie役の役者の名前はGeetanjali Thapa、綴りは違うが偶然にもギタンジャリだ。「Gitanjali」は青空文庫にて無料で読めるので、興味のある方は是非。
まぁ、これほどの才能があれば型にはめるのが無理というか、そもそもこういう人に学校なぞ必要がなかったんだろうと思う典型である。

日本の文化や伝統を愛していたというタゴールは1902年にはインドを訪ねた岡倉天心と親交を結び、1913年の天心の死までその交友は続いた。
1916年に初来日。アメリカからの帰途で立ち寄った時も含めると生涯のうち五回も日本を訪れ、日本の西欧化や帝国主義に警鐘を鳴らしたという。

この映画のたたき台となっている「Kabuliwala」は、1892年に 「Sadhana」誌に発表した短編小説で、タゴールの作品の中でも最も多言語に翻訳されているものだ。
舞台はおよそ100年前のインド首都・英領カルカッタ(現コルカタ)で、アフガニスタンから来た果物売りの大男と少女の友情、父親の娘へのしみじみとした愛情が、作家である「私」の一人称で語られている。

作家である「私」の娘で5歳になるミニーはおしゃべり好き。あるとき、ひょんなことからミニーはカブールから来た行商人、果物売りの大男と仲良くなる。
ミニーと果物売りの男が毎日ゲラゲラ笑ってはふたりで楽しそうに話していて、「私」の妻はそれを心配していた。そんなある日、果物売りは掛けを踏み倒した客を殴ってしまい刑務所へ入れられてしまう。それ以来、「私」の家族はミニーも含めてこの男のことをすっかり忘れてしまっていた。
思い出したのは8年後、ミニーが嫁いでいく日のこと。昨日出所したという果物売りが、ミニーに会うためにやってくる。最初は追い払おうとした「私」だが、果物売りの男にミニーと同じくらいの娘がいたことを知り、娘を想う親の不憫さに同情し意を決してミニーに会わせるも……


この小説の発表当時、タゴール自身の長女もミニーとほぼ同じ年令だった。当時は12~13歳で結婚する のが普通であったベンガルの娘たちへの父親の想いはひとしおであったのだろうと想像できる。
100年前のことと思っていたけれど、インド人の友人たち(みんな三十路)の母親が40代で、祖母が50代であることを知ると、ごく最近までそうだったんだなと思わずにはいられない。 

「Kabuliwala」はヒンディー語がOKならば、下記のリンクから無料でスマートホンで楽しめる。


日本語は無料にてWebというわけにはいかないので、書籍をどうぞ。

 

 
「Bioscopewala」はアフガニスタン人、行商人、ミニーにさまざまなことを教えてくれる人という「Kabuliwala」の基本設定をいかしつつも、まったく違った物語となっている。冒頭の部分は服役していた理由が殺人とあって、ちょっとだけサスペンス調。
アフガニスタン絡みのシーンと、優しい嘘が心の糸にひっかかる

 

個人的には落語「くっしゃみ講釈」に出て来る「八百屋お七」ののぞきからくりとは随分雰囲気の違う、インド版Bioscopeの比較が出来たのが楽しかった。
八百屋お七のぞきからくりはこんな感じ。

 

 

普段は広告関係の仕事をしていて、映画は初というDeb Medhekar監督は母親がベンガル人。子守歌もベンガル語ならタゴールの歌もよく聞かせてくれたとのことで、子供の頃からタゴールに親しんできたのだという。
もともとAmitabh Bachchanアミターブ・バッチャン)を主役に立ててタゴール作品を映画にしようとしていたのだけれど、製作がズルズルと底なし延期になったため、監督からアイディアを引き継いでDeb Medhekarがメガホンをとったという経緯がある。

なぜ、Amitabh BachchanではなくDanny Denzongpaの起用となったのかといえば、アフガニスタンにはパシュトゥーン人とハザーラ人という二つの大きな部族があり、ハザーラ族はモンゴロイドの顔つきでシッキム出身のDanny Denzongpaに合致したからなのらしい。
パシュトゥーン族の顔つきであるAmitabh BachchanがBioscopewalaだったとしても特に問題はないように思うのだが、まぁ、そのあたりは大人の理由なのだろう。
Danny Denzongpaを観ていて
「あれ? どっかで観たような……」
と思ったのだが、「Khuda Gawah(1992)」にKhuda Baksh役で出ていた。

 つまり、カブール・ロケに行ったことがあるのだ。
今回、実際にアフガニスタンでロケは行われておらず、かわりに突っ込みどころ満載ながらラダックで撮影されている。
撮影場所の選定などについても、Danny Denzongpaの過去の経験は役に立ったのではないかと想像できる。

もうひとつ、Minnie役のGeetanjali Thapaを観ている間じゅう「えーっと、何ていう名前だったっけなぁ。あの人にそっくり……」とそればかり考えていたのだが、ようやっと思い出せた。

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森川由加里だ。
監督がMeena Kumariのファンで、Meena Kumari似のGeetanjali Thapaを抜擢したのだそうだが、はっきりいってあんまり似ていない。

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のぞきからくりの中の登場人物としても現れるMeena Kumari

森川由加里似であることからもわかるのだが、シッキム出身のGeetanjali Thapaもまたモンゴロイド系なのだ。つまり同じような顔つきのDanny DenzongpaとGeetanjali Thapaが二人寄ると
「もしかしてこの二人って同郷なの?」
とか間違った発想をしてしまうし、かたやモスリムでかたやヒンドゥーという風に見えない。むしろ
「二人ともチベット仏教徒なんじゃ?」
な感じがしてしまうのである。Meena Kumariは1972年に亡くなっているので実際問題無理な話なのだけれど、それこそMeena KumariとDanny Denzongpa、もしくはAmitabh BachchanとGeetanjali Thapaであればもっとスムーズなのにと思わなくもないが、人として普遍的な”愛”に触れることのできる、切ないけれど幸せになれるとてもいい映画だ。

 

カブールとカルカッタ

アフガニスタンと当時インドの首都であったカルカッタ(現・コルカタ)は、どれくらいの距離があったのだろうと地図を開いてみると……
なんと2570km!!
今ある舗装された道を歩いて来たとしても521時間である。
Google Mapに電車や車、飛行機という設定はあるが”馬”とか”らくだ”はないので、ちょっと計算しずらいのだけれど、寝たり食事したり山を越えたりと考えると馬や列車を使っても2週間くらいだろうか。
と、遠い……。

 

 

 ロケ地:

ジャンムー・カシミール州と西ベンガル州にて。

 

 

 

ロケ地
 North-western Ladakh (Janmu Kashmir)

アフガニスタンのシーンはラダック北西部にて。 

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'Bioscopewala', a modern take of Tagore's famous Kabuliwala - The Hindu

A major part of the film is set in Afghanistan. Tell us about the different shooting locations that you used in the film.

Well, the Afghanistan sequences are actually shot in the north-western Ladakh. The landscapes as well as the architecture there had great similarity to what we found out about Afghanistan in our research. We actually went through the photographs from the 1990s, in particular those taken by Steve McCurry during the time he was travelling through Afghanistan. We went back to magazines and studied an immense amount of photographs. After completing our research, we did the recce for about 10-12 days in order to find exactly the right locations for our shoot.

 

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ロケ地
 Kolkata (West Bengal)

 

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この映画が観られるサイト:

Bioscopewala (2018) Hindi in HD - Einthusan