ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

①香港への旅立ち

香港啓徳空港特有の左への急旋回。 九龍城の薄汚れた凄みのある風景と、眼下のマッチ箱のようなごちゃごちゃとした建物が、実物大となって飛行機の窓にせまってくる頃、飛行機は『香港の匂い』で満たされる。

ドブ川のような、久し振りに開けた冷蔵庫の中で何かが知らぬ間に腐っていたような匂い。香港が一番寒いはずの1月にこれだけ匂いたつのなら、暑い夏は想像を絶するであろう。 私の不快そうな顔を見てとったか、隣に座っていた香港在住だという白人男性が私の顔を覗き込んで 「臭いでしょう?」 と話し掛けてくる。頷くと 「何の匂いだかわかりますか?」 「海水の汚濁によるものじゃないかしら」 しばらく考えて、こう答えた私を男性は笑い飛ばし 「これはね、お金と欲の匂い」 右手の親指、人差し指と中指をお金を数える時のようにこすりあわせてみせた。 「マネー、マネー、マネー。香港ではお金がすべてなんだよ」

愛情も地位もパスポートも、ここでは確かにお金で買えるんだということに気がついたのは、ずっと後になってから。 初めて訪れる香港で働いてみようなんて、胸に膨らむ期待と不安をなだめすかして着陸を待つ私にはピンとは来なかった。