ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Chalo Dilli

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ヒンディー映画「Chalo Dilli」(2011)

配役:

Mihika Banerjee役:Lara Dutta 
Manu Gupta役:Vinay Pathak 
Lt. Col. Vikram Rathore役:Akshay Kumar 
Inspector Surendra Mishra役:Pankaj Jha
列車の車掌K. C. Pant役:Brijendra Kala 
"Laila O Laila"という曲の中のLaila役:Yana Gupta(特別出演)
タクシードライバーBablu役:Narottam Bain
トラック運転手Dharampalji 役:Dadhi R Pandey

 

 

ネタバレしない程度のあらすじ:

ムンバイ在住の投資銀行で活躍するキャリアウーマンMihika Banerjee (ララ・ダッタ)は路上でスーツケースの中身をまき散らす男性や交通規制による交通渋滞によって、デリー行きの飛行機に乗り遅れてしまった。どうしても夫Vikram Rana (アクシャイ・クマール)と落ち合わなければいけないので、普段はファーストクラスにしか乗らないMihikaだったがしぶしぶ格安航空機に乗り換えたところ、あのスーツケースの中身をまき散らしていたManu Gupta (ヴィネイ・パタック)も同乗。
ところが、デリー空港が閉鎖されていたため、飛行機が到着したのはジャイプールだった。深夜だったが4000ルピーのプリペイドタクシーでデリーへ向かおうとすると、34時間もぶっ通しで仕事をしていたので眠くて仕方のないドライバーに当たってしまい、居眠り運転で蛇行しまくり。
路肩にタクシーを止めて言争っているところへ「かぉーん すぃ ばりー ばーと ほーがいー (大したことないよ)」が口癖のManuが乗り込んできて、
「何度もジャイプールからデリーへは車で運転したことがあるので、目をつぶっていても行ける」
と眠りこけるドライバーを後部座席に追いやって、自分が運転しはじめる。
しばらくすると車がアジメール方向(デリーとは逆)に向かっていることに気付き、ドライバーをたたき起こして「ここはどこだ?」と訊くも、起こされたばかりのドライバーはわかるはずもない。おまけに車がエンコ。
二人はトラックをヒッチハイクして近くの安食堂兼安宿まで行き、翌朝はらくだタクシー、トラクターを乗り継いでNuaまで行き、そこから電車でジュヌジュヌ経由でデリーを目指す道中、ハイソな暮らしをしているMihikaが今まで経験をしたことのないトラブルが待ち構える。
確かにトラブルだらけであるのだが、この旅を通してふれあう人々そしてManuを通して、Give and Takeの発想で生きてきたMihikaの何かが少しだけ変わっていく。
料理に髪の毛が入っていても、レストランでメニューの上をゴキブリが歩いていても、荷物をなくしてしまっても、お金をすられても「たいしたことないよ」というManuに
「あなたにとって、いったい何が大したことなの!」
とキレていたMihikaであったが、旅が終わってみてManuにとって「大したこと」がなんなのかがわかるのだった。 

小僧的視点:

久々に旅人向けのいい映画に出会えた。

 

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 ムンバイからジャイプールまでは格安航空機とはいえ飛行機なので、デリーまで行けずに降ろされただけ。それこそ「大したこと」ではない。
ジャイプールからデリーまで、トイレ休憩2回の6時間もあれば着く距離(←なんだこの職業病的な距離感は)を逆方向のアジメールへ行ってみたり、Nuaやシェカワティ地方のJhunjhunuでギャングの抗争に巻き込まれて戒厳令が引かれたりする。
逆方向に行くなんてよくあることだし、飛行機のダイバートも何度も経験している。イスラエルではパレスチナ人による暴動、チベットではパンチェンラマ騒ぎにも巻き込まれ、昨年もモスリムとヒンドゥーの対立で戒厳令が敷かれたジャイプールに居た……つまり、旅をしていると普通に(なのか?)出くわす小さな事件から大きな事件まで、あとになって思うと強烈な旅の思い出にはなっているものの「大したこと」では本当にないのだ。むしろ、それをどう乗り越えるか、どう楽しむか……旅人の腕のみせどころでもある。

暴動や戒厳令の真っただ中にいても、あまり恐怖を感じたことがないというのが実際に経験した私の感想だ。映画だから特になのかもしれないが、抗争に巻き込まれているのに警察署からギャングが車に乗せてくれたりと……作り手の暖かさもあって、怖くはない。「ガタガタ道で頭ぶつけて痛かった」的印象の方が強く残る。

好きだった場面はトラックの運転手に、乗せてくれたお礼を払おうとすると
「妻がもうすぐ子供を産むんだ。無事に生まれるように祈ってくれればそれでいい」
と言われ、Mihikaが目を白黒させるところ。Nuaなどの田舎に行けばいくほど、旅人に優しい人たちは都市部よりも増えて来る。旅が思い通りに進まなければ進まないほど、こういった人たちとの出会いが増え、村の人々の親切や温情が染み入るのだ。
インドを、いや世界を自分の足で歩いた人なら、誰でも1度や2度はこんな経験をしたことがあるはずだ。そういった旅の醍醐味が再現され、Give and TakeだったMihikaがだんだんと「Given and Given」の発想に変わっていき、最後は誕生日パーティーにManuを招待しようという夫Vikramのアイディアに同意するなど「旅が教えてくれること」の偉大さも伝わってくる。

もし、あなたが旅好きならばラジャスタンの風景を楽しむだけのためでもいい、いちどは観ておいて損はない。

 

タイトルは反英スローガンから? 疑惑

映画のタイトル「Chalo Dilli」はもしかしたら、「Dilli Chalo」を文字っているのかもしれない。「Dilli Chalo」は「Jai Hind(インド万歳)」「Glory to India!(インドに栄光あれ)」などと並び、かつてインド国民軍(INA)を創立し日本軍と協力してインドを独立に導いたSubash Chandra Bose(スバーシュ・チャンドラ・ボース)の掲げた反英スローガンのうちのひとつ。
「Jai Hind」にいたっては今や軍人や警察官の間で普通に交わされる挨拶になっており、身近なところではエアー・インディアの機内放送でも使われている。

「Dilli Chalo」のもともとの意味は「デリーへ行こう」であるが、軍事的なスローガンなので「(英領インドの首都)デリーへ攻め込め!」という勢いのあるニュアンスなのだ。「何がなんでもデリーへ行かねば!」という雰囲気にピッタリだ。

 

 

ロケ地

撮影はマハーラーシュトラ州、ラジャスタン州、デリーなど。

 

ロケ地
Mumbai (Maharashtra, India)

ムンバイの渋滞でManuと出会うシーン

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飛行機に乗りそびれるところからManuとの再会シーン。

 

格安航空券の機内シーン

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ロケ地
On the way from Jaipur to Ajmer (Rajasthan)

眠くてしかたがないタクシードライバーともめていると、そこへManuが乗り込んでくる。

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アジメール方向へ行ってタクシーがエンコ、乗せてもらったトラックのシーン。最後の最後に私のお気に入りのシーン。


 

ロケ地
Nua (Rajasthan)

らくだタクシー、乗り合いトラクターでNuaの駅へ 。ラジャスタンらしい風景が楽しめる。

Nuaの駅舎の中はこんな感じ

 

ロケ地
Jhunjhunu (Rajasthan)

Nua駅から財布をスられてしまったために無賃乗車。それでも「大したことない」ので目の前のベンガル人とおしゃべりをしつつ、ラジャスタンの風景を楽しむシーン。 

 

キンマの汁でシミだらけの洗面台がある安宿のシーン。

 

 

ロケ地
Chandni Chowk (Old Delhi, Delhi,)

 Manuの家を訪ねて、「大したこと」を知るシーン。

 

この映画が観られるサイト:

Chalo Dilli (2011) Hindi in SD - Einthusan