ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Life of Pi トラと漂流した227日

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アメリカ・英語映画「Life of Pi」(2012)
邦題「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

配役:

"Pi" ことPiscine Molitor Patel役:Suraj Sharma
成人したPiscine Molitor Patel役:Irrfan Khan 
カナダ人小説家Yann Martel役:Rafe Spall
"Pi" の母親Gita Patel役:Tabu
"Pi" の父親Santosh Patel役:Adil Hussain
料理人役:Gérard Depardieu
幸せな仏教徒役:Wang Po-chieh
"Pi" のガールフレンドAnand役:Shravanthi Sainath
神父役:Andrea Di Stefano 

 



ネタバレしない程度のさっぱりしたあらすじ:

「話を聞けば神を信じる」と言われ、インド人の”Pi(パイ)”ことPiscine Molitor Patel(イルファン・カーン)を小説家ヤン・マーテルが訪ねるところから映画ははじまる。

元フランスの植民地で現在は連邦直轄地域となっている、インドのポンディシェリで育ったPiは泳ぎや楽器が得意な少年だった。
動物園を営む両親と兄と暮らしていたが、補助金の打ち切りを期に動物園をたたみ、貨物船で移住先のカナダへ。
しかし、太平洋のマリアナ海溝北上中に海難事故に遭い、16歳のPiはオランウータン、ハイエナ、シマウマ、「Richard Parker」という名前のベンガルトラとともに救命ボートで広大な海をさまようことになる。

小僧的視点:

2001年に発表されたカナダ人小説家ヤン・マーテルの「パイの物語」が原作、監督は台湾の李安(アン・リー)、主な役者陣はインド人、そして配給はアメリカ合衆国

「16歳である日突然孤児になり、猛獣のトラとともに227日漂流した男」が、ひょうひょうとしていい感じにチカラの抜けているIrrfan Khan(イルファン・カーン)で、妙に納得する。その人の持つ雰囲気そのものだから、これを演技で醸し出すのは不可能に近い。キャスティングの勝利といえよう。
Piは年代に合わせてIrrfan Khanを含めた合計4名の役者が担っている。漂流中のPiを演じたSuraj Sharma(スーラジ・シャルマ)は当時哲学科の学生(今もニューヨーク大学で勉強中)だったが、その後も演技の世界で活躍しており、最近では「Phillauri (2017)」でAnushka Sharma扮する木の妖精の相手役(って言っていいのか?)をつとめ、ボリウッドデビューもしている。

 この映画、わくわくが止まらない。
子供の時に読んだジュール・ヴェルヌの「Le tour du monde en quatre-vingt jours(邦題:八十日間世界一周)」くらいのわくわく。
会う人会う人にこの映画のあらすじというかディテールを話し、
「わかった、わかった、ハイハイ」
軽くあしらわれて、いなされるくらい楽しかった(←どんな程度だ?)

Piは各種宗教が入り混じるポンディシェリ育ちだったこともあり、ヒンドゥー教キリスト教イスラム教とを同時に信じていて、イスラム式礼拝をしているかと思ったら
「洗礼を受けたい」
などと言い出す始末。
「ヲイヲイ、イスラム教は改宗出来ないはずなんだけど……」
私の心配とは別に、父親からは
「色んなものを同時に信じるということは、結局何も信じていないのと同じこと」
と言われていた。
この場面を観た時、「あれ? もしかして?」ふと思ったのだ。
イスラム教でもユダヤ教でもキリスト教でも、宗教とはそこに至る方法でしかなく、つまるところ神(真理)はどれも全部同じなんじゃないのか? ということに、私はイスラエルパレスチナを旅してようやっと気付いたのだが、Piは10歳やそこらですでに気付いていたのかもしれないと。
その証拠に、漂流中にたびたび
「僕に命を与えてくれてありがとうございます」
神と対話するシーンがあったが、その時に唱えていたのは「アッラー」でも「クリシュナ」でも「イエズス」でもなく、「神」だった。
なかなかあなどれない輩である。

Piの父も母も兄もみんな寝ている間に水没してしまったのだが、なぜPiだけが助かったのかといえば好奇心丸出しの回遊好きだったからである。
「嵐が来てるよ、見に行こうよ!」
寝ている兄を誘ったのにすげなく断られ、Piはひとりで甲板に出る。そこで船が座礁していることを誰よりも早く知り、一度は家族を助けるべくほぼ水没しているバースまで泳いで行っているのだがどうしようもなく、救命ボートに落っこちることになる。

嵐が来ている時にその様子をわざわざ見に行っては波にさらわれたり、水路で水に流されて亡くなったというニュースを年に何回か耳にする。
「決して見に行ったりしないでください」
テレビからの呼び掛けもある。
「なんで、嵐の時にわざわざ見に行く?」
思う反面、それでも見に行きたい気持ちというのを私は密かに理解できるのである。
ましてや生まれてはじめて乗った、貨物船の上での嵐。普段、家にいる時とはまったく違う状況のはずだ。
臆病者の私はその気持ちを抑えて水没する組であるが、ここでPiが甲板に出てはしゃぐから冒険的わくわくがいやがおうにも高まってしまう。
じゃぁ、あの時水没して一瞬で御陀仏だったのと、トラに怯えつつ飢えと孤独と戦って227日漂流するのとどっちが楽だったかというのは、また違う話。
幸せで何の不自由も悩みもなく過ごす一生と、いろんな学びを通して辛いことも悲しいことも乗り越える一生。魂の磨かれっぷりは後者の方がハンパないに決まっている。

救命ボートのところで、印象的だったシーンがひとつある。
幻想的だったクジラの場面でも、嵐の場面でもなく、船酔いの場面。あまりに波が高くて船が揺れるのでぐったりしているRichard ParkerにPiは何度も
「ごめんね、揺れちゃて」
と謝るのである。Piはかなりヘンな子供ではあるけれど、インド人なのである。めったに「ごめん」なんて言わないインド人なのに、船が揺れて自分ではどうしようもないのに、自分はちっとも悪くなんかないのに謝っちゃうのである。
どれだけRichard ParkerとPiの距離が、友達というより家族の領域まで近くなっているのかが読み取れる一瞬だ。Richard Parkerがほぼ死ぬ寸前に頭をヒザに乗せるあのシーンよりも、ずっとよく伝わってくる。

スキさえあらば襲い掛かろうとする猛獣と漂流するのは怖すぎる。
なかなか魚が釣れず、空腹のあまりRichard Parkerがたまらず海に飛び込んだはいいが、船に戻れなくなった時
「しめた! ここで突き放すチャンスだ! これからはちっちゃな筏ではなくて船で寝られるようになる」
思ったのに、結局Piは突き放すことが出来なかった。「あーあ……」観ている私は少々がっかりしたのだけれど、後に「Richard Parkerがいてくれたから、この試練が乗り切れたんだと思う」とPiの語りがあって、孤独というものの恐ろしさを知った。
よく、離婚して苦労してオンナでひとつで子供を育て上げたお母さんが
「この子が居てくれたから、私はやって来られた」
とか言っているのを聞き、「んー、そうなの? 子供が居なくて独り身だった方がよっぽど楽にやって来られたんじゃないの?」とか考えてもみるわけであるが、同じようなことなのかもしれない。

メキシコの海岸に漂着した後、振り返って”さよなら”がわりの別れの一瞥をするだろうと期待していたのに、Richard Parkerがそのまままっすぐ進み、振り返りもせずにどこかへ立ち去ってしまったことをPiは少なからず寂しく感じていた。
別れ際に振り返るかどうかを私も確かめてしまうクチだし、この気持ちはとてもよくわかる。
が、そういうPi本人はガールフレンドのAnandに、さよならをいわずにカナダに旅立ったのである。

「結局生きることは手放すことだ。一番切ないのは別れを言えずに終わることだ」
Piのこの台詞は多方面に深いのである。

 

 撮影は主にインドと台湾にて、ニュージーランドもちょっとだけ。 

 


後半、なぜか画面が真っ黒で音だけ鳴る……。

 

ロケ地
 Botanical Gardens (Pondicherry)

Pondicherryには動物園というものが(昔はあったけれど、それ以降)ないので、この植物園を動物園に改造して撮影が行われた。

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ロケ地
 Pondicherry pier (Pondicherry)

 カナダへ発つ前、ガールフレンドAnandとの最後のデート場所f:id:bokenkozo:20180609094153j:plain

 

ロケ地
Arulmigu Kokilambigai Vudanurai Thirukameswarar Thirukovil (Pondicherry)

 名前があまりにも長くて寿限無状態。Villianurというところにあるので、「Villianur Temple」とも呼ばれている1000年以上の歴史をもつヒンズー教寺院。
政府からガッチリと許可を取り、数えきれないほどのろうそくを一晩中灯し、祭りの風景を作り出して撮影。

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ロケ地
Muslim quarter (Pondicherry)

 イスラム教に興味をもち、礼拝中に入っていくモスクはこの界隈に。


 

 

ロケ地
Munnar hill station (Kerala )

 家族で旅行(キャンプ)に行き、キリスト教という宗教と巡り合った場所。茶畑が美しい。

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ロケ地
墾丁国家森林遊楽区 (屏東縣恆春鎮)

人食い島のシーンはここ。
場所の設定は屏東出身の李監督ならでは。国家公園内に手つかずのベンガルボダイジュ林があることを知っていたのだとか。



 

ロケ地
水湳空港 (台中)

 ロケ地というより、スタジオというかセットだが、海のシーンはすべてここで。
今台中にある国際空港ではなく、昔の飛行場に各種の波を再現できる装置を備えた超大型(長さ70m、幅30m、深さ4m)の撮影用タンクを設置、空や水の動きはCGで。

 

  

種明かし
CG処理前の台湾での撮影は、こんな感じ

 

 

地図
マリアナ海溝(船のマーク)からメキシコの浜辺まで、直線距離にして15000キロ。直線で行けるわけがないので蛇行して倍くらいか?

 

この映画が観られるサイト:

Life of Pi (2012) full movie, eng. subs

 

¥100円でレンタル可