ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

ディズニー格安入場券㊦

 

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アジア人である私からみれば、「せっかく一生懸命物件を紹介してくれたのに、買わなくて…なんだかちょっぴり彼に悪いなぁ」という気持ちから、同行者がこんなことを言い出したのだということはよぉーく判る。
しかし、相手は思いっきり「ノーと言える」アメリカ人なのである。
テーブルに座らされた我々のもとには、営業マンのボスという女性が現れて
「金額が高いから決断出来ないのか? だったら狭くはなるが、もうちょっと手頃な物件もあるからそれを試算してみせる」
と言い始める。
だから、そうじゃないんだってばぁー。
仕方なく私はやれ台灣にオフィスが無いだのと抵抗したのだが
「ほら、こんなに安い」
女性が私達に向かって見せた金額に対して、あろうことか同行者が
「それは安い!」
とか言い出したのである。
なっぬーっ?!
人が必死こいて買わずに済むように抵抗しているというのに、オマエが横から中国語だとはいえ「安い!」などと言いほざくとはなにごとなのじゃっ、オイ!!
ギロっと同行者を睨むが、これまたしゃーしゃーと
「だって台灣元にしたら50万元くらいだよ!」
などと言ってのける。
こうなっては仕方がない。突然モードを中国語に切り替えて
「あなたは買いたいわけ? 買いたくないわけ?」
詰め寄ると
「だって、さっき見たあのマンションがたった50万元なら安いじゃないか!台灣だったら少なくとも500万元はする」
「確かにあのマンションを365日使えて50万元だとしたら格安だけど、一年のうち使えるのはたった1週間だけなんだよ。分かってるとは思うけど……」
私が中国語で説明すると、同行者はかなり長い間絶句した後
「それなら異様に高い……」
と言った。
あのなぁ……。英語がわからないのにもほどがあるよ!
営業マンの男性とそのボスである女性は、我々が聞いたこともない言語で喧々囂々やりあっているので面食らっていたが、我々の会話が収束したのを見て
「で、結論は出ました?」
と尋ねてくる。
「結論が出るもなにも、わが同行者はシステムをちっとも理解していませんでした。つまりこんな風にですね、我々には言葉の問題もあるのです。契約というのは非常に重要なものなのだから、こんな状態で英語の文書にサインすることなどできません」
と私は答えた。
英語が理解できるというのが条件でこの見学ツアーにいらしたんじゃないんですか? と詰め寄られるかと思いきや
「それならこちらには、それぞれの言語を話す営業マンもいます」
と来た。
ううっ、そう来るか……。
「いや、言語の問題はさておいてもですね……」
私がなんとか言いくるめようとした時である。
「私はいわゆるスローモーで、すぐすぐの決断は出来ないタイプなのです」
同行者がまたしても、言わなくていいことを言い出したのである。
もーっ、やめろおおーっ! そのアジア的な断り方っ!
思わず叫びたくなったのだが、こんなチャンスを相手側が見逃すハズはない。
「ちょっとお待ちください」
とか言って、今度は「いかにもやり手」という風貌の営業マンを連れて来て、私は深く深くこんなところへ来てしまったことを後悔したのである。
「何日猶予があれば決断出来ますか? こちらに宿泊していただいて考えていただくという、特別な処置も出来ます。それに関してはとりあえず800USドル支払っていただいて……契約の際にはお支払いいただいた800USドルを差し引いてなんちゃらかんちゃら……」
やり手君は外見通り非常にやり手であった。
しょうがないので私は戦法を変えた。物件としてのバラエティーが乏しいこと、毎回連絡をするのに国際電話を掛けなければならないなんて! の基本的な二点に加え、私のアジアにおける旅のスタイルをもう一度説明した。彼らが急遽日本や台湾にオフィスを開くことなど不可能であるし、私の旅のスタイルを無理矢理変えることも出来ないと思ったからである。なのにここで
「君たちがこんなにまでよくしてくれることは感謝しているんだ……」
などと、またしても同行者がほざくので、やり手君は決してひるまない。
「ここに滞在するにあたり、一気に800USドル支払うことに抵抗があるのであれば、一日30USドルづつ払っていくという方法もあってなんじゃらかんじゃら……」
もう、やめてよ、そのアジア式でフォローしよとするのっ!
私は今度こそきっぱり同行者に中国語で告げてから
「場所の交換に129USドルかかるだの、管理費用が一年に約150USドルかかるだのというのを計算に入れると、先ほどソフトな営業マン君が[一日あたりのホテル代に対する予算]×7×[一年に休暇に費やす週]×[これから死ぬまでに出かけるバケーションの回数]で出た金額と、会員権に支払うべき金額を比べるのは馬鹿げたことである。特に私のようにアジアばっかりふらふらしていて、一日5USドルにも満たない宿で南京虫の襲撃を受けたりしながらも『まぁまぁ快適だ』とか言ってる輩にしたら、必ずや掛かるであろう交換のための費用と管理費用を足した280USドルをホテル代にすれば、死ぬほどお釣りが来る。先ほど一流ホテルの部屋の掃除がどうのこうのと言っていたが、このリゾートにしたってトイレの便座を拭いたタオルで、キッチンのテーブルを拭かないかどうかまでは私には確認できない」
と、ガシガシのアメリカ式で対抗したのである。私がまくしたてるのを聞いているうちに、同行者が
「僕がここに今日来た本当の目的というのは、会員権を買うためじゃなくて、実は遊園地の安い入場券を手に入れるためなんだ」
などと言い、壊れ始めてしまう。
「そうだよー。先ほどからあちこちで契約書にサインしている人も含めて、ここにいる全ての人は単に『安い遊園地のチケット』のためにここに来ているんだ」
やり手君が言ったのを受けた同行者は
「もう、チケットのことは忘れるし要らないから、もう僕たちを帰してくれないか?」
オイオイ、それじゃぁ何のために来たんだかワケがわかんないぞぉ!
思っている私を前に、これにはやり手君も苦笑いになって
「じゃぁ、聞くけれど。君はこのリゾートに滞在したくないのか?」
と聞いた。
同行者はおねおねと何か言っていたが、私はそれを遮って
「ちっとも滞在したくなんかないっ!」
と言い切った。
「それなら話はおしまいだ。この紙を持って後ろのオフィスに行って渡し、外にチケットセクションがあるから、お目当てのチケットを受け取って帰るといいよ」
やり手君は何やら書類にサインをして渡してくれた。

「このプログラムが素晴らしいこともよく分かっているし、熱心に紹介してくれたことも感謝してるんだよ……」
この後に及んでまたしてもアジア式を展開しようとする同行者に向かって、今まで黙っていたソフト営業マンが
「感謝してるって言葉にするのなら、買うはずだよ。僕は感謝して欲しいんじゃなくて、好機を逃して欲しくなかったんだ」
と言い、やり手君には
「映画に出て来るこういう台詞知ってる? 『誠意があるなら金を見せろ』ってね」
なんとも厭な感じの雰囲気で皮肉られたのだが、同行者は全然それに気付いていないようだった。なんとも幸せな輩である。

ま、こういう顛末があったにせよ、結果としては「格安の遊園地入場券」を手に入れられたわけだから、決して「罠」でもなければ「騙し」でもなかったことは確かである。
ただし、チケット・カウンターのお兄ちゃんが言っていた「単にぐるっと回って見学をし、気に入ったらお友達に紹介すればそれでいいのだ」というのは、厳密にいうと「ほんの90分ほどの見学」とともに大間違いであり、JAROに「まぎわらしい表現」として訴えて出ようと思えば出来そうな気はする。
「私は世界一押しの弱い性格でなかなかノーと言えない」
というムキには決してお奨めできるようなものではないが、私のように『なんでか知らないが航空券が当たってオーランドに来てしまった。そして英語になるとナゼかはっきりモノが言えるようになる』人にとっては、格好の暇つぶしというか冷やかしだったと思う。
アジア的な交渉に慣れすぎている人と一緒に行かなければ、地獄を見ることもあるまい。

この見学ツアーに参加するのに2000年5月の時点では、英語もしくはスペイン語を完璧に理解することや年収が2人合わせて4万USドル以上……といったいくつかの条件があり、申請書に注意書きとして書かれている。
興味があって時間をもてあましており、以上の条件に当てはまる場合、もしくは、「ノーと言える日本人」である場合は行ってみるのも楽しかろう。(←本当かぁ??)