ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

タイ語教室

f:id:bokenkozo:20180522170402j:plain

タイの小さな田舎町、ホア・ヒンには土地の人がナイト・マーケットと呼ぶ、全長1.5キロほどの夜店がある。
両側に洋服屋、化粧品屋、帽子屋、布地屋、小間物屋などが狭い道幅いっぱいにところ狭しと並んでいて、何やら好奇心がぞわぞわする。
ナイトマーケットとはいうものの、夕方4時くらい、まだ陽も高く全く”ナイト”ではないうちから開店し夜遅くまで、繰り出した観光客や地元の人でごったがえす。
買物だけではなく食べ物の屋台も沢山あって、レストランよりこのナイトマーケットに食事に来る人の方が多いくらいだ。ホテルの人も
「あそこにいけば、安くてうまいものが盛りだくさん」
と太鼓判。

夕方になると車両通行止めになる道路にはテーブルと椅子が並べられ、そこだけ見ればヨーロッパの教会前にあるカフェ・テラスのようでもある。それでも排気ガスとオートパイのピーピーという警笛は、自分がタイの喧騒にいることをいやおうなく思い出させてくれるのだけれど、この騒音が人ごみに溶けあって夜の活気が加速しているような気もする。

ナイトマーケットがそろそろ途切れるかというあたり、京華銀行の前に私の行きつけのタイ語教室はある。
教室といってもそこは屋台で、美しい娘さんとお母さんの2人が主に営業している。時々、宿題を終えた幼い弟達も手伝っていたりして、完全なる家族経営だ。
最初に私がこの屋台で食事をした時のこと。 勘定を英語で頼むと娘さんからはなにやらタイ語が返ってきた。まるきり分からないので、
「ここに数字で書いて」
紙とボールベンを差し出すと、アラビア文字もびっくりの象形文字で、何やらさらさらと書いてくれる。
「เท่าไหร่」
話せないタイ話が読めるはずもなく
『弱ったなあ。食べちゃったんだから払わない訳にもいかないけど、いくらだか分からないと払いようもない』
困っている私にもう1度発音してくれる。
「タオラーイ」
私も言ってみる
「タオラーイ」
ところがイントネーションが悪いらしく、顔をしかめて首を振る。何度か直されているうちにどうやら『タオ』は高く、『ラーイ』下へ落ち込むようにラーを発音してからイで引き上げるように発音することが判明。
ようやくきちんと発音出末た私に、彼女は満足そうにうなずき、紙にようやく
『45B(バーツ)』
と書いてくれて無事お勘定を済ませた。
ホテルに帰って
「45バーツをタオライなのか」
と聞いてみるとタオラーイは『お勘定はいくら?』のことであった。

これ以降、この屋台に行くと、の『~はありますか?(ミー ~ マイ カー/ มี ~ไหม คะ)』や『チャーハン(カオ・パッ/ ข้าวผัด)』などの単語が、タイ話できちんと発音できるまで娘さんは注文を取ってくれなくなり、半強制的タイ語教室になったというわけだ。
お母さんの作る美味しいタイ料理にありつこうと、ムキになって発音練習を繰り返したので、これらの単語はタイ人もタイ人と間違えるくらいちゃんと発音できるようになった。

おなかがいっぱいになった上に、娘さんの正しいタイ語の発音まで学べるなんて、2度おいしい屋台なのである。