ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

インド映画ロケ地巡り Ladies vs Ricky Bahl

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ヒンディー映画「Ladies vs Ricky Bahl」(2011)

配役

Ricky Bahl役:Ranveer Singh
Sunny Singh( in Delhi)役:Ranveer Singh
Deven ‘Idiot’ Shah (in Mumbai)役:Ranveer Singh
Iqbal Khan( in Lucknow)役:Ranveer Singh
Vikram Thapar(in Goa)役:Ranveer Singh
Diego Vaz (in Goa)役:Ranveer Singh
Ishika Patelに扮するIshika Desai役:Anushka Sharma
Dimple Chaddha役:Parineeti Chopra
Raina Parulekar役:Dipannita Sharma
Saira Rashid役:Aditi Sharma

ネタバレしない程度のあらすじ:

時にウェイター、時にシェフ、メイクアップアーチストかと思えばシンガーなどになりきっては、あの手この手で30人の女性を騙してお金を巻き上げていく詐欺師Ricky Bahl(Ranveer Singh)。30人中27人の女性のハートをどんな風に盗むのかは劇中に流される『Aadat Se Majboor』という曲の中で、走馬燈的に流れるのみ。残る4人がこの映画の主な登場人物である。

①デリー在住のDimple(パリニーティ・チョープラー)はジムのトレイナーSunny(ランヴィール・シン) と恋に落ち、不動産業を営む彼女の父親が 『祖父のものだが不法に占拠されて裁判に負けて取り上げられた』Sunnyの言葉を信じ、デリーの1等地にある赤の他人の邸宅を2000万ルピーで買い取ってしまう。前金として渡した200万ルピーとともにSunnyはドロン。

②ムンバイ在住のRaina(ディパニータ・チョプラ)はどんな不可能も可能にするスーパーキャリアウーマン。社長からMFフセインという画家の絵を調達するように命令され、画廊を経営するDeven(ランヴィール・シン) の仲介でニセの絵画を1000万ルピーで掴まされてしまう。前金として渡した400万ルピーとともにDevenはドロン。

③ラクナウ在住のSaira(アディティ・シャルマー)は夫を自動車事故で亡くし、亡き夫の父親の洋装店を手伝っている。ある日、バスに慌てて乗ろうとして持っていた果物Jamunをまき散らし、それを拾ってくれようとしたのが小ぶりのスーツケースを提げたIqbal(ランヴィール・シン) だった。「自分で拾うから触らなくていい」とSairaは制したが、バスの定期を入れた財布を忘れたことにHazratganjへ向かうバスの中で気づく。

「Hazratganjまで2枚」
偶然同じ行き先だったIqbalがチケットを買ってくれ、翌日も同じ時間にバスに乗るというのでお金は明日返すという約束をする。お礼を言ったSairaにIqbalは
「Mention not(どういたしまして)」
と。
翌日、約束通りバス乗り場に現れたIqbalの分のチケットをSairaが支払い、切符をIqbalに渡すよう車掌に告げる。今度はIqbal が「ありがとう」、Sairaが「Mention not」と言ってお金の貸し借りはここで終わる。
数日後、店の外を通るIqbalを目にとめたSairaが声をかけて呼び込み、店主である義理の父と引き合わせる。いつも提げているスーツケースにはIqbalの村で作っているという手の込んだ美しい刺繍の布が入っており、買ってくれる店を探しているのだがなかなか見つからないという話をする。店主はIqbalの言い値400ルピーではなく500ルピーで買い取ると言い、手付けの100万ルピーを渡したところドロン。

マスコミの取材を受けて騙されたと語った②のRainaの様子が全国にテレビで流されると、①のDimpleと③のSairaから電話がかかってくる。Dimpleの持っていた写真からSunny 、Deven、Iqbalが同一人物であることが判明し、3人はRainaの友人で敏腕販売員の④Ishika(アヌシュカー・シャルマー)を詐欺男が現在生息しているゴアに呼び寄せ、騙し返してお金を取り返そうという計画をする。
さて、計画は成功するのか? それともIshikaは31番目の詐欺被害者となってしまうのか?

小僧的視点:

BAND BAAJA BAARAAT」でインド映画にドはまりした直後、インド映画好きの同僚から薦められたのがこの映画であった。中毒性があると私が主張するManeesh Sharma(マニーシュ・シャルマー)監督の2作目であり、アヌシュカー・シャルマーとランヴィール・シンが事実上の主演女優・主演男優となるのでいわばBAND BAAJA BAARAATチームそのまま。
面白いのがデリーのDimpleことパリニーティ・チョープラー。彼女はこの映画制作会社の広報の仕事をしていたのだが、抜擢されてこの映画でデビューをし、おまけにこの年の新人賞も手にしているということ。
アメリカの大学で演劇を学んで広告代理店に勤めつつもオーディションを受けまくったランヴィール・シンと、ビジネス、金融、経済をイギリスで学んできたパリニーティ・チョープラーがオーディションも受けずに同じスクリーンにおさまる……世の中とは面白いものである。

さて、上記あらすじののうち、③のラクナウ在住のSairaの部分だけがやけに細かく描写されているような気がするであろう。
これは自戒である。
私が女性だったらIqbalみたいな詐欺師になら、いとも簡単に引っかかってしまいそうな気がするのだ。
男も女も「チャライ」のが苦手なので、そういう人には騙される以前に普段から近づかないという自信があるのだけれど、Iqbalはチャラさゼロ……というかむしろ親切で謙虚な「いい人」ではないか。
無類の民族衣装好きにとって、クルタを着て現れる垢抜けない感じのIqbalは大変に危険で、もっとはっきりいってしまえば「タイプ」なんである。

思い起こせば親切で謙虚な垢抜けない感じのいい人に、どれだけ手痛く振られたことか……などとノスタルジックなことを書き始めると、小説が何冊も書けてしまうので今はやめておく。
が、デリー、ムンバイ、ゴアとは明かに雰囲気の違う「ラクナウ」という町の風景も短いシーンながら心をわしづかみにしてくる。
私にとってのLadies vs Ricky Bahlは、自戒とかなんとかいいつつ、単なるIqbal贔屓のひきだおし大会なのであった。

走馬燈的Aadat Se Majboor Remixバージョン

ロケ地
Lucknow (UP-ウッタル・プラデーシュ)


ジャンルとしては「コン(詐欺)物」である。
Ricky Bahl(ランヴィール・シン)に騙される何人もの女性達のうちモスリム女性のSaira(アディテ・シャルマー)とRicky Bahlが扮するIqbalのエピソードがラクナウで撮影されている。
これに関しては詳しすぎるほど前に書いた.ルーミーゲート近くにあるバス停、Bada ImambaraからHazratganjへ向かうバスの中でふたりは出会い、HazratganjにあるとされるSairaの義父が営む布地屋はChowkに住むRavindra Dayalさんという人の築110年の家を借りて撮影された。
短いエピソードながら、ラクナウ名産のチカン刺繍からラクナウ名物?『Tehzeeb and Nazakat』(礼儀正しくて、まじめな人柄)までが、ぎゅっと凝縮されている。 


ラクナウに到着して耳にしたのが「アダーブ」という南アジアのモスリムの人々の間で交わされる挨拶の言葉。
ラジャスタンやラダックで特になんの用事がなくとも、すれちがった人に「ラムラム」「ジュレー」といった挨拶をされることがあるが、これのラクナウ版が「アダーブ」なのかもしれない。最後の「ブ」が消えてしまって「アダー」と聞こえることも多い。
それともうひとつ、あれ? とすぐに違和感を感じたのはヒンズー語(ウルドゥ語?)の言葉遣いがやけに丁寧なこと。
「~してください」的な言い回しがとても多く使われていて、ヒンズー語の語彙が少ないがゆえとはいえ普段どれだけ自分がぞんざいな言葉遣いをしているのかということに気付かされたりもした。

また、街の人々が「シュクリア」もしくは「サンキュー」や、「ソーリー」をクチにすることも新鮮だった。
日本人だとそんなこと当たり前だろうと思うかもしれないけれど、たとえばドライバーが道をたずねるために路肩に車を停めたとしよう。路肩にある店でタイヤのパンクを直している人
を車まで呼びつけ
「どこどこへ行きたい、どうやって行くか教えろ」
となぜか命令形で訊く。仕事の手を止め、近づいてきたタイヤの修理屋さんが
「もう通り過ぎてるからUターンだ。戻って左行って、なんとかっていう店の角を右に入って……」
きちんと教えてくれても、ドライバーがお礼を言うことはまずない。「なぜ、ここでサンキューを言わない?」
何度か思ったのでドライバーに直接訊いてみたのだけれど、「そういう習慣がない」という返事だった。これに慣れた後でラクナウに行くと
「うぉー、街の人が道を教えただけでお礼を言う! 
これがウワサの『Tehzeeb and Nazakat』なのか!」
と無駄に感動が出来るのである。

SairaがIqbalに「サンキュー」とお礼を言い、「どういたしまして(そんなことおっしゃらないでください)」とやりとりするシーン。実はここも『Tehzeeb and Nazakat』を感じるべき場面といえる。
実は「サンキュー」と「シュクリア」にも実は違いがあり、「シュクリア」と言うことで実は壁を築くのである。家人や友達など親しい人には他人行儀になりすぎる「シュクリア」ではなく「サンキュー」を使う。つまり、SairaがIqbalに「サンキュー」と言っていることから、「親しさを感じ、それを表している」ととる必要があるのだ。

ロケ地
Rumi Gate (Lucknow)

 

 

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上記の写真、正確に言うとルーミーゲートの裏側なのであるが、行ってみてわかったのは道幅が今とは全く違うということだ。
SairaとIqbalの間に見える白い柵みたいなものと壁っぽいものがすべてなくなっている。

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逆行でヒドイ画像になってしまっているルーミーゲートの裏側だが、道がかなり拡張されている。

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右端に見えていた建物がこのNaubat Khana Monumentだが、当時はここにもあった同じような白い柵がすっかり撤去されている。ここの向かいがバラ・イマンバラの正面出入口。(ここで見るとわかりやすい)
あまりの変わりっぷりにびっくりである。

ロケ地
Chowk (Lucknow)

 

そして、もっとびっくりというかしょんぼりしたことに、「Chowkに住むRavindra Dayalさんという人の築110年の家」というのが、すでに老朽化により取り壊されてしまったという情報であった。

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無いものは探せないので、仕方なくChowkにあるプーリー屋を冷やかして終了。
嗚呼、もう少し早くに行くべきだったと後悔しきりであった。

この映画とIqbal(←えー、それ?)が観られるサイト

https://einthusan.tv/movie/watch/0734/?lang=hindi