ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

ラマダンは始めも終わりも大切

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ブータンのプンツォリンからインドへ戻る車のドライバーさんが、モスリムだった。
おりしも「ラマダン」が始まったばかり、敬虔なモスリムの人は断食だけではなく水を飲まないだけでなく唾を飲み込むこともしないのだ。
5月末のインドは1年で一番暑い時期だ。普段は寒い寒いとすぐ車のエアコンを止めたがる私だが、20代とはいえ暑さで体力を消耗してはいけないのでこの時ばかりはドライバーさんのいいようにしてもらった。
イスラム教のきまりでは妊婦さんや病人、また旅行中の人は断食をしなくてもよいことになっているはずなのだが、それでも行っているということはかなり厳格なモスリムなのだろう。

何度かラマダンの時期にイスラムの国を旅をしたが、ガイドさんや運転手さんが断食をしているのにでくわしたのはマレーシアで1度だけ。
日没まで彼らは何も食べられないし飲めないのでお客さんには「日中の餌付け?禁止令」を発動したが、それでも我々は普通に昼食を食べにレストランに行くわけで、所在なさげにぽつんとはずれた所に座っているガイドさんを見てちょっと申し訳ない気分になったりもした。

「断食、大変だね」
気をまぎらわせるためにもドライバーさん相手に話をはじめてみたが、断食自体はそんなにつらくないという。何が大変かというと、生活のリズムがぐちゃぐちゃになることだという。
断食といっても日没後は1日分の栄養をとるべく盛大に夕飯を食べるし、水分もたっぷりとる。日没も19時やそこらなので、夕食の遅いインドで生活のリズムが狂う理由がわからなかったのだが、問題は夕食ではなく断食をはじめる朝のことなのだそうだ。
日が昇ると食事がとれなくなるので、日がのぼる直前に食事をしなければならないが日の出が4時くらいなら3時くらいに起きなくてはならない。じゃぁ、朝ごはんを抜いて寝ていればいいじゃないかと思うところだが
「これから断食をします」
という意味も含めて、日の出前には何か食べてお祈りをしなくてはならないのだという。
寝ているうちに断食が勝手に始まって、1日1食なのだとばかり思っていた私は大間違いであった。
21:00くらいから夕食を食べて超特急で寝ても22:00、なのに3:00に毎日起きる生活が1ヶ月……ううむ、それは確かになかなか大変だ。

そうこうしているうちに日暮れ時。
「あと、何分で日没」
ドライバーさんはずっとスマホの時計をチラチラ見ていたいたが、5分くらい前になったら、まぁ、じゃんじゃかじゃんじゃか電話が鳴るのである。家族からの断食終了のお知らせらしい。
『それほどまでに時間を気にしているのか……年末のカウントダウンみたいだ』
などと思ったのだが、日没の時間きっかりになったらドライバーさん、きゅーっと突然車を道の端に停めた。
『え? なに? ここでお祈りはじめちゃう?』
と思ったら、やおらマンゴージュースのペットボトルを取り出してごくごく飲み始めた。
日のうちで断食を始める瞬間が大事なら、断食の終わる瞬間も大切。実際に「断食を破る」という意味の行いをする必要があるのだそうで、欲しくなくても何かその瞬間にクチにしないといけないらしい。

「ちゃんと断食破った?」
またしても両親や兄弟からじゃんじゃかじゃんじゃか電話がかかってくるのを見ながら、ラマダンって本当に大変なんだなぁと身をもって知ったのであった。