ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

乾爸⑫ みちくさ

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今回は乾爸を送り返すのだけが目的だから、任務を終えたらすぐに帰ろうと思っていたのである。
しかし、長沙から香港へ戻る飛行機は週に2便のみ。夜中の1時にガセネタ通り? 列車があれば、翌日の昼頃には長沙に戻れて夜7時過ぎの飛行機には間に合った。
しかしガセネタはガセネタだったので、私は次の飛行機まであと3日、ここ湖南省で過ごすことになったのだ。
『うーむ、いったいここには何があるというのだ?』
ガイドブックの湖南省のところだけを破いて来たのだが、これと言って見るべきものもないように思える。
うーーむ、どうするかなぁ。
相棒と相談の上、韶山という毛沢東ゆかりの地へ行ってみることに決めた。そこには銅像だの記念館だの、生家だのがあると書いてあった。
マルクスにも社会主義にも何の思いいれもないのだけれど、毛沢東という人が生まれた家というのはどんな感じなのだろうということに、ほんのちょっとの興味がわいたのである。

翌日は7時36分発の列車で湘潭へ向かう。湘潭は懐華から長沙へ向かう途中の駅だ。ガイドブックによると、そこから韶山行きのバスが出ているらしい。
二等寝台の切符を買ったのだが、ナント暖房が無かった。窓を閉めて毛布を被っているのに、寒さがしんしんと染み込んで来る。スラックスを二枚重ね着して、靴下も二枚重ねて履いた。長袖のTシャツの上に丸首のセーターとカーディガン、またその上には木綿のシャツを着た。持っているすべての服を身にまとってている状態だから、もうこれ以上は着膨れのしようがない。
「今、何が一番欲しいか?」
と聞かれれば、私は迷うことなく
「タイツ!」
と答えるであろう。
「ヘアドライアー」
というのもかなり魅力的な響きだ。スイッチを入れて温風を身体に当てたら、さぞ暖かいであろう。
着膨れもあって持って来たバッグはすっからかん。ドライヤーくらい入れて来ればよかったと後悔し、自宅の引出しで眠っているだろうドライヤーを思い浮かべて
「呼び寄せられないかなぁ……」
超能力への妄想ばかりが広がってしまう。
こんなことばかり考えている自分、今思うとバカじゃなかろうか……なのだが、それほどこの列車の中は寒かったのだ。

湘潭駅についたのは午後5時。韶山へはここからバスが出ているはずなのだが、駅前にはそれらしきバスはない。お昼ご飯も食べていなかったのでとにかく食事をすませ、レストランの女の子に韶山行きのバスのことを聞いてみる。
「ここからは韶山行きのバスは出てないから西駅へ行かなくちゃ。西駅へは17番のバスで行けるわよ」
教えてくれたのはいいのだが、バス停では待てど暮らせど17番のバスが来ない。
雨はしとしと降っているけど傘は無く、寒くて寒くて仕方ない。
バス停のすぐ後ろにあった商店で
「17番のバスってここで待ってればいいの?」
と聞けば
「今日はもうない」
と言われてしまう。それを早く言いなさーい! なのである。
しかし、バス停の表示には「最終は19:00」と書いてあるのだ。
「でも、最終は7時って……」
なおも言う私に、お店のおばちゃんは
「あぁーあれね。ウソウソ」
ぐぇっ。どうしてバス停の表示がウソなのだぁ。ウソならきちんと書き換えてくれぇー。
仕方がないのでタイのトゥクトゥクのようなバイクタクシーを捕まえて西駅へ向かったが、西駅発の韶山行き最終バスは午後5時半ですでに出発した後だった。
ううー、ご飯食べてなければ間に合ったのかぁ……。
うなだれている私に、バイクタクシーの運転手は
「韶山行きのバスならまだあるよ」
などと言うではないか。
このバイクタクシーは1人2元。
「あと1元出せばバスの乗り場まで連れて行くよ」
と運転手がいうので
「ああ、じゃぁそうして」
ということになる。
連れて行かれたのは西駅のすぐそばにある私設バス乗り場、確かにバスはまだあった。