ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

乾爸⑥ 孟渓なんて知らない

f:id:bokenkozo:20180523210133j:plain

翌朝、車掌さんに起こされると4時半。4時45分には到着するので、急いで荷物をまとめる。
乾爸は
「タオル、これ使っていいか?」
と私のタオルを持って洗面所に行き
「はい」
と返してくれたらタオルびっちょびちょ。
うーーん、どうやったらタオルをこんなにびしょびしょに出来るのだ?
まぁいい。ビニール袋に濡れたタオルをぶちこんで電車を下りる。
雨がしとしと降っていて、またもや無茶苦茶寒い。
プラットフォームで大荷物を前に
「どうするべなぁ」
ぼぉっとしていると、ポーターのおじさんが声をかけてくる。
長沙でもそうだったけれど、ポーターは長い竹の棒を持っているのですぐ分かる。
「この二つなんだけど、いくら?」
聞いてみると
「全部で5元」
という返事。中国では荷物は5元と、相場が決まっているのだろうか?
そんなんじゃワリに合わないんじゃないのぉ? とは思うのだが、おじさんの言い値なのだから
「じゃ、お願い」
ということになる。
駅ではキップを集めるようすもなく、そのまま外へ出る。建物から出たとたん、わらわらっとタクシーの運転手が
「どこへ行くのだ?」
すりよって来る。
ポーターさんにはタクシーに荷物載せてね! と頼んであったので、まだ去らずに横に立っている。
本当ならば帰りの列車の時間をチェックしたり、キップを買ったりしたいところなのだが、そんなヒマはどこにもない。ポーターをこのまま待たせておくわけにはいかないからだ。
「朝7時に家の近くまで行くバスがある」
がんばーはそんなことを言うのであるが、誰がこの大荷物をそのバスに載せ、「家の近く」から家まで運べるというのだ。なんとしてもタクシーで行かねばならぬ。
しかし、今度は乾爸の家のある「孟渓」という場所を、タクシーの運転手が誰ひとり知らないのである。
「松桃の先だ」
と乾爸は言うのだが、どの運転手も松桃は知っていても孟渓は知らない。
10人ほどの運転手がかたまって
「いったいそれはどこなのだ?」
というようなことを言っていたが、そのうち1人が
「ああ、知ってる」
などと言い出したので値段の交渉をする。
運転手の言い値は800元であったが
「おかしいじゃないか、前回は600元だったぞ」
と乾爸が言いはって、600元でまとまった。しかし、今度はその運転手の車が小さくて荷物が載りきらない。日本でいう日産マーチのような車で、後ろの荷物を入れるスペースがまったく無いのである。後部座席に入れようにも、そこへ荷物を入れてしまうと人の乗るスペースがなくなってしまう。
どれだけ大きな荷物を持って行ったか、きっとこの説明で分かってもらえることだろう。
「これじゃ入らないよ」
「無理だ、絶対駄目」
ポーターさんと運転手がごちゃごちゃと言っていたのだが、そのうち別の車がバックしてきてトランクを開ける。
なんだか分からないのだが
「この車で行け」
とマーチの運転手が言うので、とりあえずトランクに荷物を入れる。
ポーターには黙って十元を渡したのだが
「もうけ、もうけ」
とやけに嬉しそうだった。長沙とは物価が違うのであろうか?
なんとか荷物は入ったものの、運転していくのはマーチの運転手ではなく若い兄ちゃんであった。
ん? もしかしてマーチの運転手から行き方を伝授されたのだろうか?
そんなことを思いながらも乗り込むと車は走り出す。
しかし、走り出してしばらくすると
「どこへ行くのだ?」
若い運転手はコワイことを聞くのである。
知ってたんじゃないのかぁ!
「松桃なら知っている」
と運転手が言うので、じゃぁそこまで行って聞けばいいかということになる。12回も行ったり来たりしているのだから、乾爸もある程度の行き方はわかっているはず。
それが、まったく知らなかったのである。