ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

誕生日偽装

 

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SNSでインド人の友人達のページを眺めていて、不思議に思ったことがある。
休眠しているとか、ほとんど見ていないというわけでもなさそうなのに、毎年たくさんの寄せられている誕生日のお祝いメッセージにだけ、ほとんど本人が返信しないのだ。
「あれ? 今日って誕生日じゃなかったっけ?」
みたいなメッセージが、時々外国人によって書かれていたりもするが、それに対する返信もない。面白いのはインド人からはそういったツッコミがないこと。

当人がリアクションしないのにはちゃんと理由があって、
「だって、その日は自分の本当の誕生日じゃないんだもん!」
だから。
実はインドにおける誕生日は、MNIC(Multi purpose National Identity Cards ) というIDカードを作る時に、適当に作るものだったのだ。
なぜに適当に誕生日を作ったりするのかといえば、公務員の退職年齢と関係がある。

こんなところからインドがの就職事情が垣間見られるのだが、インドでも就職先として人気があるのは、60歳の定年まで雇用が保障される公務員なのだ。
仮に初任給5万ルピー(約8万5千円)の公務員と初任給10万ルピー(約17万円)の民間企業の2つがあったとしたら、多くのインド人は公務員を選ぶ。
公務員の社会的ステータスは特に地方では高く、地位にかかわりなく、公務員というだけで結婚相手としてひっぱりだこ。お見合いというか両親がほとんどを決定してしまうインドの結婚だけに、職業は大きな要素である。

定年まで少しでも長く働けるように、高校卒業時にIDカードを作る時に誕生日を偽装? するのが慣習になっているらしく、だから他のインド人からのツッコミがなかったのだ。
そんなわけなので、実際の誕生日以前の日付で偽装されていることはほとんどなく、たいていは「若返って」いる。
本当は2月生まれなのに8月生まれになっていたり、15日生まれなのに22日になっていたりサバの読みっぷりは人それぞれで、
そんなところからも「嘘つき具合」が読み取れたりして面白い。
もちろん詐称していない、正直者なんだか、先が読めないんだか……の輩もいるにはいる。
実際より2~3歳も若返っている強者もいて驚くのだが、これが可能なのは卒業時にみんなが同じ年齢ではないインドだからこそ。
インドには義務教育というのが存在しないので
「僕と3歳年上のお兄ちゃんは同級生で……」
という会話は、学業のスタートがバラバラ、決まっていないインドでは不思議でもなんでもないのだ。

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世界経済のネタ帳より

謎がとけたところでインドの平均寿命のグラフを見てほしい。青い線がインドで赤が日本。
子供の死亡率なども大きくかかわる平均寿命なので、実際にみんながみんなその歳で亡くなるということではないが、12億の人口をかかえるインドには65歳以上の高齢者は5%しかいないのである。
私の友人達がIDカードを作ったであろうあたりで、平均寿命はやっと60歳を超えなんとする程度だ。平均寿命が定年年齢より低いかそれくらいなのに、先を見越して年齢詐称するならば、インド人は生涯現役で引退後の第2の人生という概念はないのだろう。

IDに記されている情報が基本になっているので、パスポートも、銀行口座も、福祉関連の手続きもすべて誕生日はエセにて統一されているため、SNSだけ本当の誕生日を載せるわけにもいかないのだろう。そのままエセの誕生日が載せられているので、友達からお祝いされてもちっとも嬉しくない。だからリアクションなしなのも理解できる。
ただ、将来を見越した工作? というだけのことなので
「誕生日いつ?」
直接きけば、みんな普通に本当の誕生日を答えてくる。
「誰かを騙すとか、そういう意味はまったくないんだ」
インド人達はしれっと言ってのけるのだけれど、それを世界ではインチキというのである。