ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

Ladakh⑦いざ、パンゴン……えーっ!

「えーーっ、なんでー? あ、やっぱりウソ。昨日の夜、山酔いしたとかさっき言ったけどただの冗談だから!!」

一生懸命取り消したが、ガイドさんの
「今日はヌブラ谷に行きましょう」
は翻らなかった。
ヌブラ谷はショヤク川の流れる広大な渓谷、谷といっても標高は3500メートル程度でレーとほとんど変わらない。それでも、4200メートル越えのパンゴン湖に昨晩山酔いした身体で行かず、ヌブラ谷でもう少し高度順応をさせた方がいいというのが、山岳ガイドでもあるガイドさんの意見なのだ。
もう、私の心はパンゴン湖。突然おもちゃを取り上げられた子供みたいになっている私に
「こんなお天気でパンゴン湖を目指しても、行かれないかもしれませんよ」
などと、ねずみ色の空を見上げつつ不穏なことを言うのである。
また、出た! 行かれる、行かれない。呼ばれる、呼ばれていないだ。

昔、奈良にある天河神社というところに行ったことがある。帰ってきてから色んな人に
「よく行かれたね」
などと言われて不思議に思った。
大阪に住む友人が運転してくれて車で向かったのだけれど、確かに道はくねくねですれ違うのは大変だった。山深いところにある神社ではあるけれど、ネパールから山越えして目指すチベットポタラ宮とはわけが違う。お参りするのにも別段長い階段があるわけでも、登山をしなければならないわけでもない。
なにがどう「よく行かれたね」なのか理解できないので調べてみたら、天候不順や川が溢れるといったいわゆる物理的に行かれなくなっている人もいれば、行こうとするとなぜか急に用事が出来たり子供が熱を出したりして機会を逸している人も多いようなのだ。
そして、それを人は「呼ばれていない」と表現しており、呼ばれない人は行かれない神社なのだと言う人もいた。

いや、それ、レーでされても大変困るんである。
私はパンゴン湖に行きたくてラダックに来ているんだから、パンゴン湖を見ずして帰りたくはないのである。もともと「3日でいいでしょ」と言われていた日程を
「なにかあって、パンゴン湖へ行かれなくなったらいやだから」
と5日にし、なにかあろうものなら「行かれるまで毎日、通ってやる!」の心構えで来ているのである。

いままで旅してきて、飛行機が飛ばないということにはよく出くわしてきた。エンジントラブルだったり、近くにある火山が噴火したり、砂嵐だったり、台風だったりと理由はさまざまだが、数日遅れることはあっても結局は行かれているし帰って来られている。もう無理かと思ったチベットだって、満身創痍ながらちゃんと行って帰ってきた。

うん、私が呼ばれていないところは今までない! 絶対なんとかなるし、きっとうまくいくのである(←どこまでも前向き)
ちなみにパンゴン湖は2009年に公開された「3 Idiots(邦題:きっとうまくいく)」という、インド映画歴代興行収入1位を記録した大ヒット作のラストシーンが撮影されている。
したまちコメディ映画祭で『3バカに乾杯!』のタイトルで上映されたので、日本でも『3バカ』というと「あー!」という反応が返ってくることが多い。
とても楽しい良い映画なので、機会があれば是非観てみるといい。

~3 Idiots ネタバレラストシーン~


3 Idiots- last moment.mp4

ヌブラ谷は、レーの北にある標高5620メートルの峠『カルドゥン・ラ』を越えたところにあるのだが、峠へと続くその道が
こんな

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猛吹雪。うん、確かに夏なんだけどね、今。

それでも峠さえ通過してしまえば、なんとかなるんだろうなぁとタカをくくってガラス越しに写真など撮っていたら、みるみるタイヤが雪に埋まって車が動かなくなってしまった。
え? 夏にラダックでパンゴン湖を見ずして遭難?
いやだー、死ぬならもう少しあったかいところで死にたい……(←いやなの、そこなのかよ!)


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ドライバーさん必死の作業中

 

ガイドさんも外へ出てドライバーさんと作業をしている。
「どうしよう。やっぱり私も降りて手伝うべき?」
長いコートとか手袋とか襟巻きとかを出して、ぐるぐるだるまさん装備をしている間になんとか車が動くようになり、この調子で先に進むのは危険だというので引き返すことになった。

呼ばれていないところは今までない! と豪語したそばからナンなのであるが、ヌブラ谷にはさっそく見事に呼ばれていなかったのである。