ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

写真にみるインド

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「この人だあれ? 知り合いの人?」
インドで撮った写真を友人に見せると、必ずといっていいほどこう聞かれる。

カメラを遠くから被写体に向けて構えていると、シャッターを切るか切らないかの絶妙のタイミングで、街行くインド人がファインダーの中心にぬうっと入って来る。
結果、侵入してきた通りすがりのインド人が主役で、被写体が飾りのような写真が出来上がってしまう。
写真を撮ろうと構えていると、写らないように気をつかって、ささっと脇をすり抜けようとするて日本人とはえらい違いだ。
インド人は遠慮がないというか、どうやら『写りたがり』らしい。ぬうっと現われるのは被写体の前面だけとは限らない。

ボンベイ果物屋の前で撮った写真が出来土がってみると、後ろで私達3人の肩を抱くようにして果物屋の主でもない、見知らぬヒゲのインド人が守護霊のように写っていたことがある。
撮影された時に肩を抱かれた覚えはないから、少し離れたところからそう見えるようにボーズを取っていたとしか思えない。

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どうみても家族写真…… 

誰もいない崖の上で写真を撮って貰っていたのに、あれこれ構図決めをしている間にそこらへんの人がどんどん背景に入って来て家族写真みたくになっていたり、背景の人なのにもの凄いカメラ目線だったり……。
こうして頼みもしないのにファインダーの中に入りたがるくせに、その写真をくれとか、送ってくれとか言われたことは一度もない。写ることに意義があるのだろうか?

インド人のおじさんに1度だけ、
「写真を撮ってくれませんか?」
と頼まれたことかある。
「いいですよ」
と軽い気持ちで答えたのが運のツキ。大変な目にあった。
カメラの構えは横位置じゃないとブレるとか、足を開いて立ってくれないと良い写真は撮れないとか、シャッターを押すのは真ん中の2本の指両方を使えとか、なかなかのカメラマニアらしく注文が非常に多い。ついには
「今の自分のスマイルは今イチ」
「右側の髭の具合が、どうも納得がいかない」
とかなんとか何枚も撮り直し。ようやっと満足のいく写真が撮れたらしく
「お礼に、君のも撮ってあげよう」
と言ってくれた。

こんなにこだわりを持っているのだからさぞかし上手なのだろうと思い、土産話のネタにとお願いすることにした。
撮られるのと同様撮るほうにまわっても、当然プロ・カメラマン並みの口うるささ。顔の角度がどうの、身体の向きがどうのとポーズに散々てこずった後は、ファインダーを覗いて首をひねり、その度に
「もうちょっと、少し後ろに下がって」
という注文を私につける。
じりっじりっと自分も後ろに下がりはじめたと思ったら、突然走り出した!
はじめは何だかわからずぼうっとしていた私だったが、新手の盗人だと気づいたので慌てて追いかけた。
「うわーっ、泥棒! まてー!!」
という私の叫び声に、カメラを小脇に抱える彼の走りも加速する。
騒ぎに鷲いたまわりの人が数人で彼を通せんぼをして、なんとか取り押さえてくれた。彼はゴキブリのように仰向けにひっくり返りながらも
「だって遠くからのほうが、もっと綺麗だと思ったんだもん」
などと言いわけしている。
こんなリアクションをされると、怒ると言うより笑いたくなってしまうからインドは不思議だ。

私の持っていたカメラは安物のコンパクト・カメラなのに、今度は言うに事欠いて
「このカメラは素晴らしい。いくらでなら売ってくれる?」
盗もうとして失敗したのは棚に上げて言い出す始末。
インドのカメラマニアは転んでもただ起きない、ツラの皮の非常に厚い男であった。

1995年10月と2017年1月の冒険