ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

罰金かクレームの二択

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添乗員はガイドではないという話の続き。 僕らが海外添乗に行く場合も、ガイドは”してはいけない”業務になる。

たとえばイタリア。 イタリアの大学で考古学、言語学、外国語文学、建築学など専門的に学んでいる人以外は、専門学校で800時間の講座を受けないとガイドの資格試験が受けられないというイタリアは、日本よりも罰則はもっと厳しい。 罰金は日本とほぼ同じくらい(州によって違うが最高は4000ユーロ)だが、免許なしでガイドをした当人だけではなく、ガイドされていた旅行者にも最高1000ユーロ(12万円ぐらい)の罰金が課せられる。そこで、添乗員が同行するようなツアーには、なんらかのガイドが来ることになる。

イタリアのガイド免許取得は18歳以上でイタリア国籍(永住権)または他のEU諸国の国籍(永住権)を持っていることが条件なので、必ずしもイタリア人が来るとは限らない。永住権を持っている日本人が来てくれる場合もあり、この場合はすべてお任せしてしまえばいいのだが、英語ガイドの場合は添乗員さんによって方法はさまざま。

イタリア語が得意な添乗員さんであれば、イタリア語で説明してもらって日本語に訳す。 イタリア語のできない添乗員さんの場合は、英語で説明してもらって日本語に訳す。 添乗員さんの中には英語の苦手な人もいるし、言葉の問題ではなくイタリアにとても詳しくガイドさんよりも知識が豊富な人もいる。その場合はガイドさんには無口な鞄持ちとなってもらって、添乗員さんがすべて説明する。 この3.の「テレパシーで受け取った情報を通訳している」という状態が誤解を招くのだろうとは思うのだけれど、お客さんには添乗員さんがガイドしているようにしか見えないのである。そして 「なんで、必要のないガイドさんが来ているの?」 という疑問を生むことになる。 慢性的なガイド不足もあり、繁忙期になると英語ガイドさえも手配出来ないことがある。この場合はイタリア語ガイドとイタリア語を英語に訳す通訳アシスタントの2人がで来るのだが、テレパシー式を採用する添乗員さんだとなおさらだ。 「必要のない人が2人もきた!」 うん、そうなんだけどね。

僕は知識があろうがなかろうが、時間がかかろうがなんだろうが、とにかくガイドさんに話をしてもらってそれを訳す派を貫いている。 台灣に住んでいた時に、歴史というのはその人の立ち位置によっていくつもあるんだということを感じたこともあるが、その国を紹介したいと思うからこそガイド業をしている人が目の前にいるのに、それをさし置いて話せるほどの知識が自分にあるとは思えないというのもある。また、ガイドさんが新しい話をしてくれれば、自分の知識も増えるから面白いではないか。

そうやって知識を増やしてどうするのか。次回、同じ国に行った時にバスの中で 「この前、ガイドさんからきいた話なんですけどね……」 といって話すのである。 バスの中ではガイドさんがもしかしたら何の説明もなく使うかもしれない用語の説明やら、「当然あなたたち知ってるわよね」という前提で話をするかもしれない人や場所のことなど、あらかじめ説明しておいたりもする。 この前、「ポケットコーヒー」っていうエスプレッソコーヒーが詰まったチョコレートをお土産に買って帰ったら、すごく美味しくて評判は良かったのだけど、そのうちのいくつかが箱の中で爆発して、スーツケースがもの凄くコーヒーくさくなっていまだにニオイがとれない……というお土産案内なんだか、笑い話なんだかわからない話もしたりする。 でも、これって、何度もいってウルサイかもしれないが、ガイドではないのだ。雑談であり「だからポケットコーヒー買う人は、包装に気をつけましょうね」という説明・注意事項でしかないのであるが、これを「添乗員さんがガイドしてくれた」と思う人もいるようなのだ。

問題はここからなのだが、昨今、イタリアやフランスのようなガイド免許がないと観光案内が違法となっている国でも、”散策”と称してガイドをつけないツアーが増えてきている。 こういった国のガイドは専門職であるため、当然ガイド料は高い。しかも、州ごと、街ごとに免許が違うのでそれぞれの町で雇わねばならず、それが反映されるとツアー料金は当然高くなる。 だったら、同行している添乗員に押しつけてしまおう。罰金が課せられたとしても、添乗員が自腹で払うのだから会社の儲けには関係ない。 という仕組みだ。

そこで、添乗員はバスの中でガイドまがいの説明をするハメになり、バスを降りたら道案内だけしか出来ないとあらかじめ地図を渡して話しておくのだが、はじめて行った街で30人近くの人々が”各自散策”などできるわけもなく、 あれなに?  これなに?  あの塔の高さは何メートル?  質問されながら全員を引率することになる。 「83m です」「無名戦士のお墓です」 交通警察の目にビクビクしながらガイドして捕まったら自腹で4000ユーロを払うか、「添乗員がバスを降りたらきちんとガイドしなかった! 今までで最低の添乗員」とアンケートに書かれ、会社にクレームの電話がかかって来て嫌な思いをするかの二択である。