ぼうけんこぞう

旅と冒険(回遊ともいう)の軌跡と映画

⑧Cさんの『用事がたくさん・日本便』

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DBC・日本人
日本人キャビンクルーの間では、1番ジュニアが日本語のPA(アナウンス)をするという暗黙の了解がある。入社1年ちょっとの私が、私よりジュニアの日本人と乗り合わせることはまれなので、いつも私がアナウンス係だ。 このアナウンスも仕事の片手間に急いで入れるので、どうしても早口になってしまうし、1つ余計な仕事が増えるのだから大変だ。しかも日本便に日本人が1人だけだったりすると、本当に忙しい。
この間も目が回るほど忙しい時に、68のGなんていう飛行機最後列のお客さんの言っていることが分からないって、外人クルーに言われて行ってみたら
『今どこらへん飛んでんの?』
だって!
エアーショウはすでに映画に変わっているから、とっても嫌だけど、分かりにくい英語を話すコクピットクルーに電話して、きかなくちゃいけない。
こんなことをいちいちしている私の身にもなってよね。

日本人のお客さんは、外人には飲み物の注文さえしないのに、私が日本人だとわかったとたん、わーっと注文する。
その上、なにかあるとツラクあたるのだ。この間だって、マレーシア人の子が日本人のお客さんにコーラこぼして、チーフパーサーに頼まれて私が替わりに謝りに行った。脱いでもらったズボンをソーダ水で拭いたし、乾かした。
会社からのクリーニング代の払い戻し手続きだって申し出たのに、私が謝る前はへらへらしてたくせに、私が行ったとたんお説教がはじまった。
後から会社に来た苦情の手紙には、まるで私がこぼしたみたいに書いてあったので、コーディネーターに呼ばれて嫌な思いをした。幸いチーフパーサーがこの事件を、フライト・リポート(報告書)に書いておいてくれたから助かったけど、もし書いてなかったらステージだったかと思うと肝が冷える。

日本に着いたら着いたで、することは山ほどある。家には帰れないけど電話は必ず入れる。友達にも連絡したいし、遅くまで開いている本屋で雑誌の新しいのも手に入れなくちゃいけないし、コンビニに行って駄菓子から卵にトマト、きゅうりまで仕入れてくる。
香港にも卵や野菜はあるけれど、中国大陸の鶏が生んだ卵は、すき焼きみたいに生で食べるのはちょっと怖い。サラダにするのも日本の野菜の方が安全だものね。香港で日本の生鮮食料品も買えるけれど、倍くらいの値段がする。
そうそう、明日飛行機の中で食べる昼食用のカップラーメンと、朝食用のおにぎりも買ってこなくちゃ。日本発の便は経費がかさむので、乗客の人数ぴったりしか機内食を積み込まない。誰か食べないお客さんが居れば、それが私達の分になるんだけれど、日本便は飛行時間が長いしちょうどお昼時だから、ほとんど全員食事をする。
クルーの為に用意されるサンドイッチなんて、私達がサービスを終えて食べる頃にはカサカサに乾燥しているし、中身も野菜くらいしか入ってないから、誰も手をつけない。
ガーメントバッグという衣類を入れるハンガー式のバッグに、生鮮食料品と生活必需品を詰めて飛行機に向かうクルーなんて、私達だけかもしれないね。