October
ヒンディー映画「October」(2018)
配役:
"Dan" ことDanish Walia役:Varun Dhawan
Shiuli Iyer役:Banita Sandhu
Shiuliの母親 Prof. Vidya Iyer役:Gitanjali Rao
DanのルームメイトManjeet役:Sahil Vedoliyaa
Dr. Ghosh役:Ashish Ghosh
ネタバレしない程度の/すっかり人任せなあらすじ:
不注意で覇気のない研修中のホテルマンDan(ヴァルン・ダワン)とは正反対の同期Shiuli(バニータ・サンドゥ)が、ホテル3階のプールサイドで催された仲間うちのパーティーで、あやまってテラスから転落。重症で意識がなく救急車でICUへと運ばれた。
パーティーに来ていなかったDanはこの事故のことを知らず、他の同期達に促されてShiuliの見舞いに行くもスパゲッティ状態にショックを受ける。その後も見舞いに行っていたDanは他の同期からShiuliが
「Danはどこ?」
と言ったあとに転落したことを聞かされてから、さらに足しげく病院へ行くようになる。
Danが見舞いに持って行ったShiuli flower(ヨルソケイ)の匂いをきっかけに、昏睡状態だったShiuliに意識が戻る。
あまりに頻繁に見舞いにいくために仕事がおろそかになり、Danはとうとう仕事をクビに。おまけに賠償金30万ルピーがホテルから両親に請求され、とうとうDanの母親が会いに来る。
Danの母親がShiuliの病室を訪ねたことをきっかけに、Shiuliの母親がDanに言う。
「もう私たちは大丈夫だから、あなたはあなたの人生を歩みなさい」
DanはKulluのホテルで支配人として働き始めるも、Danが居なくなったことでShiuliが暴力的になりリハビリを拒むようになったとの連絡を受け、DanはまたShiuliのもとに舞い戻る。リハビリの甲斐あってShiuliは母親の名前を呼べる程度まで回復し、とうとう退院して自宅で療養することに。
ある日、車いすを押して一緒に散歩するDanがShiuliに訊く。
「どうしてあの日、”Danはどこ?”って言ったの?」
Shiuliの答えは? そしてその後二人は……。
小僧的視点:
この映画は観る人の自由度がとても高い。
DanとShiuliの間の感情に関して、すべてを観ている人にゆだねたまま映画は終わってしまう。
まず、「Danはどこ?」とShiuliが訊ねなければ転落もなかった……というジレンマに駆られるDanは他の同期達と同じく私にも奇異にうつった。
だが、待てよ。いつも何かをしでかすか、イライラしているDanがShiuliの車を修理して、イライラしながら立ち去ったあれはなんだった? などと思い返す。
Shiuliはといえば鼻もちならないDanに何か特別な感情があったとは思えないのだが、では、Danがヒマーチャル・プラデシュのKulluへ行ってしまった後にくさってリハビリを拒否しはじめたのはなんだったのか? になる。
つまるところ、昏睡状態にある人に話しかけたりすることがどの程度届くのだろうかというところに行きつくのである。
Danが持ってきたヨルソケイの花の匂いがShiuliを昏睡状態から救い出し、花をせっせと運んできたDanへShiuliの気持ちが徐々に傾いていったのではないか?
……などとひとり勝手に推理して考える自由が残されている。
最後、どうしてTiruchirappalliへ木を持っていったらいけないのか? という疑問も浮かぶ。家族の引っ越し先はマンションできっと庭がないんだな……と現実的に想像することもできるが、火葬してガンジス川に遺灰を流すインドにおいてはお墓というのがない。Shiuliの母親はShiuliをShiuliの木にみたて、まるで嫁に出すかのようにDanのそばに置いてやろうとしたのではあるまいか……などとロマンティックなことを考えてみるのもまた自由だ。
Shiuli役のBanita SandhuもShiuliの母親役Gitanjali Rao(ジタンジャリ・ラオ)もヒンディー映画初登場。Varumはこんな映画を待ち望んでいたんだとか。
ロケ地
上記の記事によると、撮影はほとんどがデリーにて。
Radisson Blu New Delhi Dwarka (New Delhi, Delhi)
インターンとしてDanとShiuliが働くホテル
Venkateshwar Hospital (Dwarka New Delhi, Delhi)
Shiuliの入院先の病院
Larisa Mountain Resort (Kullu, Haripur, Himachal Pradesh)
Danがマネージャーとして働くKulluのホテル、回想する曲「
Indian Institute of Technology Delhi (New Delhi, Delhi)
Shiuliの車いすを押して散歩するシーン
この映画が観られるサイト:
https://einthusan.tv/movie/watch/2ECj/?lang=hindi
Mirzya
ヒンディー映画「Mirzya」(2016)
配役:
Munish/Adil役:Harshvardhan Kapoor
Suchitra役:Saiyami Kher
王子Karan役:Anuj Choudhry
Zeenat役:Anjali Patil
Zeenatの父親役:Om Rajesh Puri
Suchitraの父親役:Art Malik
Karanの父親役:K. K. Raina
ネタバレしない程度のあらすじ:
子供の頃、大人になってから、そして前世とこの映画は3つのタイムゾーンを行ったり来たりする。
前半部分はほぼこの動画を観れば理解できる。
Munish(ハルシュバルダン・カプール)とSuchitra(サイヤミ・ケール)はジョドプールにある学校のクラスメート。毎朝MunishがSuchitraを迎えに行き、二人で同じバスに乗って通っていた。
ある日、MunishをかばったSuchitraが罰として教師に鞭打たれるのを見たMunishは怒りを抑えきれず、警察官であるSuchitraの父親の銃を持ち出して教師を射殺してしまう。Munishは少年院に送られ、Suchitraはロンドンに留学して二人は離れ離れになてしまう。
時は流れ、Suchitraは婚約者の王子Karan(アヌジュ・チョウドゥリー)と結婚するために、ロンドンから帰国。結婚前に乗馬を習いたいというSuchitraを連れて馬場に行ったKaranは厩務員のAdilをコーチに付ける。
Suchitraは子供の時につけた背中のタトゥー(入れ墨)からAdilがMunishであることを知り、二人の間に愛の炎が再燃する。再燃といってもその炎は子供の時のものではなく、前世からのものだったのだ。
KaranとSuchitraの結婚式がまさに始まろうとする時、Adilは友人Zeenat(アンジャリ・パテル)の犠牲をもってSuchitraを連れ出すことに成功、迫りくるKaranとSuchitraの父親をかわしながら二人はパキスタン国境をめざし砂漠をバイクで走り抜け……。
小僧的視点:
映画は興行的に大コケだったようだが、映画とはこうあるべきという壮大なスケールでくり広げられる前世の部分と、砂漠の逃避行の映像が好きだ。
もとの話になっている「Mirza Sahiban」はパンジャブ地方に伝わる民話で、「Heer Ranjha」と「Sohni Mahiwal」に並ぶ悲劇である。
前世の部分はまさにこの「Mirza Sahiban」をなぞっているので、だいたいの話を書いておく。
Kheewaという村にKhewa Khanという男の子が生まれたが、産後すぐに母親が亡くなったため、Fateh Bibiという女の子を産んだばかりの近所に住む母親がKhewa Khanにお乳をやり、自分の息子として娘と同じように育てた。
Fateh Bibiの息子がMirzaで、Khewa Khanの娘がSahibaという主人公だ。
学童期になりMirzaの両親はKhewa Khanのもとに息子を送り、SahibaとMirzaは同じ学校でコーランを学ぶようになり徐々に恋が芽生える。Mirzaは弓と乗馬が得意で、Sahibaは美しく成長する。MirzaはSahibaなしには生きていけないようになるが、それがSahibaの両親にバレてMirzaは両親のところへ送り返され、すぐさまSahibaとTahir Khanという男性との結婚がとりおこなわれることになった。
それをきいたMirzaは弓をもって馬にまたがり、結婚式の当日、まさに結婚の儀が始まろうとするところに現れ、Sahibaの手をとり馬に乗せて走り去った。
結婚式会場は大騒ぎになり、兄や従兄弟達が馬にのってふたりをさがしはじめる。
やっと安全なところまで逃げ、二人は木陰にへたりこむ。Sahibaはどうしたらいいか逡巡していた。もし、探しに来た兄たちが二人を見つければ、弓の名手であるMirzaの矢で兄が射られてしまうだろう。矢がなければ血を流さなくてすむ。兄もきっと許してくれると考えたSahibaはMirzaが眠っている間に矢筒の中の矢をすべて二つに折ってしまった。
そこへSahibaの兄が現れ、Mirzaの喉元を射る。矢筒の中をさぐったMirzaはバラバラになった矢を発見してSahibaを見つめるが、そこへ次の矢が飛んできてMirzaの胸を射ぬく。Mirzaを射抜いた矢尻に覆いかぶさるようにして、Sahibaも絶命した。
なんでパンジャブ地方に悲劇の恋愛話がたくさんあるのか、とても不思議だ。
新人のHarshvardhan KapoorはAnil Kapoor の息子でSonam Kapoorの弟、これがデビュー作。Saiyami KherはTabuの親戚で、テルグ映画の出演経験はあったが、ヒンディー映画としてはこれがデビュー作だ。
両人ともに新人とは思えぬ存在感があるのだが、潜在的愛くるしさ、りりしさが男女逆なのである。
だから、Harshvardhan KapoorがAdilの時はいいのだけれど、Mirzaになると頑張ってはいるのだけれど愛くるしさが出てしまって「うーん、なんだかなぁ」になってしまう。逆にSaiyami Kherは、Suchitraの時はそれなりのキャラなのだけれど、Sahibanになるとりりしすぎてこれも、「うーん、なんだかなぁ」なのだ。
新人デビュータントにそこまでの演じ分けを期待するのはいかんせん可哀そうなので、いわばミスキャストといえるのではないだろうか。
私は馬にも乗るしアーチェリーも習ったことがあるのだが、早馬に乗りつつああも恰好よく矢を射るのは並大抵なことではない。デリーで半年あまりまず馬を操る訓練をしたというHarshvardhanは、良いスキルを身に着けたと思う。今後の仕事に役立つといいなと思う。
ロケ地
撮影はジャンムーカシミール地方とラジャスタン州にて。どうやら Rakeysh Omprakash Mehra(ラケーシュ・オムプラカーシュ・メヘラ)監督は「いままでボリウッド映画界で撮られていない場所」というのにこだわってロケ地を探したようで、中国寄りの辺境ラダックとジャイサルメールを超えたパキスタン寄りの辺境が選ばれている。
Nubra Valley (Ladakh, Jammu Kashmir)
前世のシーン。
ヌブラでなら誰か撮影していそうなものだと思ったのだけれど、どうやらラダックにおけるモンスーンシーズンの撮影をしたのがはじめてなのらしい。
6月でも雪降って恐ろしく寒かったのに、モンスーンシーズンにこんな格好でウロウロしてたら、風邪引くっちゅーに(ひとりごと)
Pahalgam Lake (Ladakh, Jammu Kashmir)
前世シーンで川ではなくて湖が写っているのはここ。確かにPangon湖はいろんな映画の撮影が行われているが、Pahalgamはなかったかもしれない。
でも、美しさはPangonの勝ち(←勝ち負けの問題かよ!)
Mehrangarh Fort (Jodhpur)
Suchitraが海外留学のため、ジョドプールから去るシーン。奥に見えるのがMehrangarh。
こうして自転車に乗ったMunishとSuchitraが風になっていたのも、Mehrangarhの入口の坂。
Blue City (Jodhpur)
正体を見破られたAdilが訪ねたのがメヘランガー砦、眼下に広がるのが青い町ことジョドプールの街並みだ。
Shiv Niwas Palace (Udaipur)
Karanの家のシーン。ウダイプールいち美しいがウダイプールいちお値段も高級なShiv Niwas Palaceのプールサイド
Jag Mandir Palace (Udaipur)
湖の中に浮かぶ宮殿ホテルのプールサイド
Shikharbadi Palace (Udaipur)
Udaipurから5kmほどのところにあり、アラバリ山が望める。もともとはメワール王国のロイヤルファミリーが象に乗って豹やライオンの狩猟をするために建てられたもの。乗馬のシーンや厩舎のシーンはここ。
馬場で通り過ぎる少年が口ずさんでおり、馬に乗っていた白人女性が訊ねた歌が「AAVE RE HITCHKI」
「Hitchki」とはしゃっくりのこと。
しゃっくりとは乾燥すると出るともいわれているけれど、誰かがその人のことを想うと、想われた人がしゃっくりすると信じられている。動画の後半に出て来る村の女性がしゃっくりして嬉しそうにしているのは、砂漠に働きに行った男性が彼女のことを想っている……ということを知ってなのだ。
しゃっくりが出るくらい、空気だけでなく離れ離れになった二人の心が乾燥しているということになるのかもしれない。
Barmer, Phulia/ Thulia and Ranau (Jaisalmer Rajasthan)
ラジャスタンでの現代のクライマックスシーン。
記事によってPhuliaとかThuliaとか記載が違うのだが、どちらにしてもGoogleの地図にはないのでプロットできないがJaisalmerの果てのBarmerからさらに行ったほぼ国境の砂漠である。インド・パキスタン国境から17kmのところで、国境警備隊だけではなく諜報局の許可なくしては一般人が立ち入ることのできない場所。もちろん、そんなところで日が暮れたからといってキャンプをすることは許されず、スタッフは毎日90kmの道のりを通い観光局と軍の立ち合いのもと撮影をなしとげた。
この映画が観られるサイト:
https://einthusan.tv/movie/watch/6Xd9/?lang=hindi
ここでもOK↓
Baaghi 2
ヒンディー映画「Baaghi 2」(2018)
配役:
”Ronny”ことRanveer Pratap Singh役:Tiger Shroff
Neha Salgaonka役:Disha Patani
Deputy inspector general of police Ajay Shergill役:Manoj Bajpayee
Assistant Commissioner of Police Loha Singh Dhull役:Randeep Hooda
Shekhar Salgaonkar役:Darshan Kumar
Usman Langda役:Deepak Dobriyal
Colonel Ranjit Singh Walia役:Shaurya Bhardwaj
Nehaの義弟Sunny Salgaonkar役:Prateik Babbar
"Ek Do Teen"という曲のMohini役:Jacqueline Fernandez(特別出演)
Inspector Sharad Kute役:Sunit Morarjee
ネタバレしない程度のシンプルなあらすじ:
特殊部隊の兵士Ronny(タイガー・シュロフ)のもとに、大学時代のモト彼女Neha(ディーシャ・パターニ) から、娘を幼稚園に送り届け車から降ろそうとしたところで、突然誰かに襲われて3歳になる娘Rheaが誘拐されたので助けて欲しいと連絡があった。
Nehaの夫Shekhar(ダルシャン・クマール)は誘拐にショックを受けてうつ状態、地元の警察は2か月に渡る捜査を打ち切るという。Ronnyは足の悪いUsman(ディーパック・ドブリヤル)の店で車をレンタルし、手がかりを探し始めるも皆がみな
「ShekharとNehaに娘はいない」だの「うちの幼稚園にRheaなどという子はいない」だのと言う。Shekharに会ったRonnyがきかされたのは、Nehaは流産のあと暴行事件に遭ったのでPTSDで精神に異常をきたしているのだということだった。
「君に娘はいなかったんだ、お母さんの名前Rheaと混同しているんだ」
というRonnyの目の前で、ショックを受けたNehaは飛び降り自殺をしてしまう。
「Nehaの義理の弟Sunnyの隠れ家で確かに女の子を見た」
というレンタカー屋のUsmanの証言でSunnyは警察に呼ばれるが、取り調べ中の事故で射殺されてしまう。Usmanも何者かに殺害されてしまい、助けに行ったRonnyはとうとう誰が黒幕なのかをつきとめる。
Rheaは本当に存在し、誘拐されていたのか? その理由は?
小僧的視点:
前作の「Baaghi」はサスペンスものじゃなかったのに、なにやら今回はアクションものにサスペンスを足してランボーな味を濃くした感じ。
もともとヒロイン役は、アイテムソング「Ek Do Teen」に出ているバーレーン育ちのスリランカ人Jacqueline Fernandez(ジャクリーン・フェルナンデス)やKriti Sanon( クリティ・サノン)を予定していたようだが、スクリーンテストの結果デートを重ねているガールフレンドに落ち着いたようだ。
この映画を観ていて
「また出てきた!」
と思ったのがShekhar役のDarshan Kumar。映画出演は2003年からこの映画で7本目、そんなに露出が多いわけでもないのに、「Mary Kom(2014)」「NH10(2015)」「Sarbjit (2016)」と、なぜか私が観る映画にばかり出演しているのである。(←すごい言い草)
主役をはった「Mirza Juuliet(2017)」以来、Darshan Kumarを見るたびにしてみたくなる実験がある。
どうだろう? 顔つきだけではなく、雰囲気もそっくり。きっとそんな位置づけの役者さんになるんだと思う。
Disha Pataniも可愛いし、二人の学生時代のいちゃいちゃも現実世界とリンクしているだけあって映画自体はとても満足である。もともとそれほど重きを置いていないけれど、戦闘シーンも何回か目を覆う場面もありつつそれなりに楽しめる。ハッピーエンドとはいいがたいけれども、救いもある。
ただ、ストーリー的に「で? 理由はわかったけれど、誘拐してどうするつもりだったの? なにがしたかったの?」というところ、Shekharの意図がイマイチ解せないまま終わってしまったのである。
撮影はムンバイのスタジオの他、マハーラーシュトラ、ゴア、ヒマーチャル・プラデシュ、タイなど。当初は中国・上海での撮影を予定していたが、インドと中国と関係がごちゃごちゃしはじめたたためにPuneに変更された。
Kothi (Himachal Pradesh)
映画冒頭の軍隊のシーン
Flame University (Pune Maharashtra)
大学時代、キャンパスのシーン
Pu. La. Deshpande Garden (Pune Maharashtra)
「Soniye Dil Nayi」という曲の中のデートシーン。
3rd Mandovi Bridge (Goa)
Goaに到着した時のシーン。
The Fontainhas Latin Quarter (Panjim Goa)
「Lo Safar」という曲の冒頭でRonnyが歩いているところで、カーチェイスもここで行われていた。
St.Augustines Ruines (North Goa Goa)
「Lo Safar」の途中で通り過ぎる。
Aguada Fort Light House (Goa)
襲ってきたおにいさんをとっちめるシーン
Krabi (Thailand)
ヘリコプターに飛び乗る場面を含む戦闘(アクション)シーン
この映画が観られるサイト:
https://einthusan.tv/movie/watch/DFXx/?lang=hindi
Prem Ratan Dhan Paayo
ヒンディー映画「Prem Ratan Dhan Paayo」(2015)
邦題「プレーム兄貴、お城へ行く」
配役:
Prem Dilwale and Yuvraj Vijay Singh Prince of Pritampur役:Salman Khan(1人2役)
Rajkumari Maithili Devi役:Sonam Kapoor
Vijayの義兄弟Yuvraj Ajay Singh 役:Neil Nitin Mukesh
Diwan Sahab/Bapu役:Anupam Kher
Chirag Singh, C.E.O of The Pritampur Empire Properties役:Armaan Kohli
Vijayの義姉妹Rajkumari Chandrika役:Swara Bhaskar
Vijayの義姉妹Rajkumari Radhika役:Aashika Bhatia
王宮の警護チーフSanjay役:Deepraj Rana
Premの友人Kanhaiya役:Deepak Dobriyal
Sameera役:Samaira Rao
美しいからそれでいい、Sonam kapoor
すっかり人任せなあらすじ:
小僧的視点:
Sonam Kapoor(ソナム・カプール)は結構なダイコンだが美しいから別に構わない。なにより踊るし、色恋沙汰もあるし、ハッピーエンドだし、そこに至る話もいわゆるマサラムービーでまぁどうでもいいのだが(←そこもどうでもいいのか!)、見どころは準備に1000日以上、撮影15か月でのべ日数200日、エキストラ5000人、ダンサー1500人、使われた花5000Kg、お菓子は1200Kg、役者50人、スタッフ500人という壮大なスケールと、これでもかというほどのお城を駆使した夢のような映像である。
ヒンディー映画業界では当時最高の製作費総額180カロール(約27億円)だけあって、セットもものすごい。
ロケはグジャラート州とラジャスタン州にて。
ただ、ロケがこれほどかすむ映画も珍しいと思う……。
ああ、ここだと判明しても、調べてみるとその建物の前にはそんなスペースがない。
「おかしいな、違う場所か?」
よくよく探ってみると、役者さん達はブルースクリーンをバックに演じていて、後でお城だけがはめ込まれていたり……写真や記事を頼りにロケ地探しをする私の身にもなってくれよ! である。(←無理な苦情タレ流し)
鏡の宮殿は是非行ってみたい! という気持ちをかきたてられた場所だけれど、サッカーの試合会場ともなったRajkumari ChandrikaとRajkumari Radhikaの家もろともにセットで驚いた!
世界中の美術さんは言葉なんかわからなくても、この映画をとにかく一度観るべきだと思う。(←美術さん専用かよ!)
Kumbhalgarh (Kumbhalgarh Rajasthan)
PremとKanhaiyaがVijayのお城だとして連れて来られたのが、ウダイプールの北 84 ㎞のところにある、万里の長城に次いで長い城壁を持つという世界遺産Kumbhalgarh。
ラナ・クンバによって15 世紀に造られた人里離れた荒野にあるKumbhalgarhは、メワール王国の統治者達が国難に直面した時の潜伏先で、チットールガルから逃れたメワールの少年王Udaiもここに潜伏していたという。
脳挫傷のVijayを隠すのにはうってつけの場所ではあるが、内部は壁画が少し残っているだけでいわゆる「宮殿」といってイメージするであろう豪華さというのはこの「城塞」にはない。
PremとKanhaiyaが入城を待たされている間に踊りだす「HALO RE(行こう!)」の曲は、笛を吹く所作があることからもわかるようにクリシュナ(Krishna)とガールフレンドのラーダ(Radha)の話がベースになっている。
「HALO RE」はグジャラート(語)では誰でも使う言葉らしい。
メイキングの方が城塞好き、Kumbhalgarh好きには面白かったりする。
Zenana Mahal (Udaipur Rajasthan)
人形劇のシーン(たぶん)
https://udaipurtimes.com/salman-khan-shoots-with-local-artists/
Fateh Garh (Udaipur Rajasthan)
Jag Mandir (Udaipur, Rajasthan)
Kumbha Mahal (Chittorgarh, Rajasthan)
On The Sets : Salman Khan Shoots At Chittorgarh For Prem Ratan Dhan Payo
Chittorgarhでロケが行われたという新聞記事を見つけたのだが、映画を観ていても
「ここだ!」という場所が特定できず。
Padmini Mahal (Chittorgarh, Rajasthan)
On The Sets : Salman Khan Shoots At Chittorgarh For Prem Ratan Dhan Payo
Chittorgarhでロケが行われたという新聞記事を見つけたのだが、映画を観ていても
「ここだ!」という場所が特定できず。
Darbar Gadh (Gujarat)
Gujaratに関してはRajkotから35 km離れたところにあるGondalで主に撮影がなされた。「Darbar Gadh」なるところで撮影がなされたという記事を発見したのだが、地図で調べたら、こんなにたくさんのDarbar Gadhが……いったい、どこのDarbar Gadh?
もしかしてDarbargardh fort complexのこと? であれば下記「Naulakha Palace」がその一部である。
Naulakha Palace (Gondal Rajkot Gujarat)
Gondal最古の宮殿でDarbargardh fort complexの一部。Vijayの義兄弟Yuvraj Ajay Singh (ニール・ニティン・ムケーシュ)の居城。
Riverside Palace (Gondal Rajkot Gujarat)
Orchard Palace (Gondal Rajkot Gujarat)
この映画が観られるサイト:
Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela
ヒンディー映画「Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela」(2013)
配役:
Ram役:Ranveer Singh
Leela役:Deepika Padukone
Dhankor Baa役:Supriya Pathak Kapur
Radhu Bhai役:Homi Wadia
Meghji Bhai役:Abhimanyu Singh
Rasila役:Richa Chadda
Bhavani役:Gulshan Devaiah
Vanda役:Jameel Khan
Kanji Bhai役:Sharad Kelkar
Kesar役:Barkha Sengupta
Ujjwal役:Tarun Anand
Pujalal役:Masood Akhtar
Goli役:Master Mohammad Faizan
ダンサー役:Priyanka Chopra (特別出演)
すっかりデリー皇帝任せなあらすじ:
小僧的視点:
シェークスピアの「ロミオとジュリエット」を叩き台にしているが、ディテールは相当違う。Sanjay Leela Bhansali(サンジェイ・リーラ・バーンサリ)監督なので見る前から「映像が美しい悲劇」なんだろうなと想像ができてしまうわけである。
Ranveer Singh(ランヴィール・シン)はデビュー作の「Band Baaja Baaraat(2010)」以来「Padmaavat(2018)」まで、詐欺師か、女たらしか、王様の役しか演じていない。この映画では女たらしのラジャーリー族のカシラだ。グジャラート訛りもピックアップしてのぞんだ。
この映画を最大に台無しにしたのは携帯電話だった。
舞台となるのはグジャラート州Ranjaar。白昼堂々武器が売られていたりするので、「昔の話なのかな」と思っていると一晩に数十通ものメッセージがRamからLeelaの携帯電話に送られてくるというエピソードが出てきて混乱する。
Ranjaarを地図にプロットしようとすると見つからない……。ああ、架空の町のおとぎ話なのかと最初から頭に叩き込んで観ればよかったのだが、そこに翻弄されて最後まで楽しめずに終わってしまった。
私は自他ともに認める落語好き。扇子を箸に見立ててうどんをすする、てぬぐいを帳簿に見立て番頭さんがページをめくるといったイリュージョンは問題なく楽しめるけれど、番頭さんが丁稚どんに携帯で電話をかけてきたとしたらそれはもう台無し。ついていけないというか、その時点で私は取り残される。
期待通り映像は美しい。RamとLeelaの結婚式のシーンともなる「Ang Laga De」という曲はヒンズー教の儀式の時に使う煙が効果的に使われていて、幻想的な雰囲気に仕上がっている。窓の外には湖が見えていて
ウダイプールでの撮影かと思いきや
思い切りセットだった。
架空の町Ranjaarはカッチ地方っぽい服装なので、便宜上カッチ湿原あたりに地図ではプロットしてみる。
「Ranjaar」と今書いてみて、そういえば「Raanjhanaa」という映画があったことを思い出してはっとした。
パンジャーブ地方に伝わる「Heer Raanjha」という悲恋物語がある。
兄と喧嘩をして家出をした青年Raanjhaが雇われ先の家の娘Heer と恋に落ちるが、二人の仲はHeer の叔父や両親に認めてもらえず、Heer は別の男と結婚させられ、追い出されたRaanjhaはYogi(遊行者)となって各地を放浪。偶然Heer と再会後は紆余曲折を経て結婚することになるが、結婚式当日にHeerは毒殺され、それを知ったRaanjhaもHeerが食べたのと同じLadduというお菓子を食べて後を追う……といったストーリーだ。
「Ranjaar」と「Raanjha」。
インド人ならこの町の名前をきいただけで、この映画が悲恋物語であり、少なくともロマンス映画であることが予想できるのだろうが、私はインド人ではないので今頃気付くのである。
個人的にはピーコックダンスっぽいコミカルなこの曲が、悲恋物語を盛り上げていて気に入っている。
それと、本編には出演のないPriyanka Chopra(プリヤンカ・チョプラ)がアイテムソングに登場している。Ranveerはこの映画と同時に「Gunday」という映画の撮影をしていたのだが、その映画の相手役がこのPriyanka Chopraだった。
振り付けを覚えるところから撮影終了まで4日、キレキレのせくしぃなダンスが見ものである。
撮影はムンバイのスタジオとラジャスタン州のウダイプールにて。ウダイプールでは主にRamとLeelaの逃避行の部分が撮られている。
旧市街の細い路地Narrow lanes of Old City (Udaipur)
Leela(ディーピカー・パードゥコーン)が従兄弟のBhavani(グルシャン・デーヴァイヤー)に 連れ戻されるシーン
Gangaur Ghat (Udaipur)
LeelaはBhavaniにこのあたりまで引っ張ってこられた
Hanuman Ghat (Udaipur)
引きずられているLeelaをRamが発見したのがHanuman Ghat。前の晩、ラジャーリー族の仲間たちと結婚祝いをしたレストランもこのあたり。
Lake Pichola (Udaipur)
RamがLeelaを救い出すべく、飛び込んだのがPichola湖ここ。
Ranveer Singhは寒空の中、45分もこの冷たい湖に浸かっていた。
Ambrai Ghat (Udaipur)
RamとLeelaが宿をとったのもこのあたりだが、前述の通り宿はセットなので探しても見つからない。部屋に居ろといったのに出歩いたLeelaが色々蒸し返して喧嘩になったシーンもAmbrai Ghatの階段。
この映画が観られるサイト:
Om-Dar-B-Dar
ヒンディー映画「Om-Dar-B-Dar」(1988)
配役:
Phoolkumari役:Anita Kanwar
Gayatri役:Gopi Desai
Jagdish役:Lalit Tiwari
Omの父親役:Lakshminarayan Shastri
Om役:Aditya Lakhia
若きOm役:Manish Gupta
Om-Dar-B-Dar l Official Trailer l Digitally Restored
ネタバレしない程度のあらすじ:
少年Omの自由闊達な青年期の物語、ラジャスタン州アジメールの生活が垣間見える。
物語はコメディーで始まり、スリラーで終わる。Omの父親は政府の役人の職を辞して、星占いに没頭。姉Gayatriは甲斐性ナシの男と付き合い、Omは科学を勉強するが魔術と宗教に惹かれていく。
小僧的視点:
ヒンズー教の3大神といえばブラフマー、ビシュヌ、シヴァ。世界はブラフマーによって創造され、ビシュヌによって維持され、シヴァによって破壊されることになっている。それぞれ、創造の神、維持の神、破壊の神となる。
インドで人気があるのはヴィシュヌとシヴァ、各地にお寺もあれば仏像やポスターもたくさん出回っている。一方ブラフマーはといえば、ラジャスタン州・プシュカルにインドで唯一祀るお寺があるのみ。人気がないにもホドがある……。
これほど人気がないのはブラフマーの妻であるサーヴィトリのせい。
ブラフマーが悪魔から守るために大規模な加持祈祷を行った際、供物を捧げる役目を担うブラフマーの妻サーヴィトリが折り悪く不在だったので、代わりにグジャール族の少女ガヤトリがブラフマーと結婚し、加持祈祷をとりおこなった。
このことに激怒したサーヴィトリが、「ブラフマーはプシュカル以外では崇拝されなくなる」という呪いをかけたのだ。
プシュカルのブラフマー寺院にはブラフマーとガイヤトリーが仲良く一緒に祀られているのに、サーヴィトリはサーヴィトリ山のてっぺんにある祠に祀られているのはこんな経緯があってのことか。
シヴァの妻であるサティが死んだときに、シヴァの流した涙で2つの池が出来たといわれている。ひとつはパキスタンにあるカタス・ラージ寺院の池であり、もう一つがプシュカルの町の真ん中にあるプシュカル湖である。
この湖が大変キレイなので、ここで撮影をしている映画がないかな? と思って探していたらこの映画がそれこそ唯一プシュカルで撮影されていたので、観てみたのだ。
前置きがいつもと違ってやけに長いので勘のよい人はお気づきかと思うが……結論からいうと、何がなんだかさっぱり理解できない許容範囲を超えたカルト映画だった。
ブラフマーが世界の創造の神であるにもかかわらず誰も信奉しないという、ヒンズー教からアイディアを得たブラフマー神の物語であり、 脚本は監督が見た夢や言葉で考えられないイメージをもとに書かれている。
……と聞いても、「え? ブラフマーの話だったの?」とキョトンとするのみである。
中性で抽象的、形而上的なヒンドゥー教の概念「ブラフマン」のことであれば、まぁなんとか呑み込めるけれど、ブラフマー神と言われると……。
「特徴を持たない普遍的な原則」であるブラフマンを擬人化して目に見える象徴としたものがブラフマー神だと仮定する説ならばわからなくもないが、やっぱり腑に落ちない。
商業的に公開されたことは一度もなく、映画祭に出品された作品であり、デジタル化にともない26年経ってから一般公開されたとはいえ
「うーーむ」
首ばかり捻ってしまう。
なのに、「Jab We Met」「Love Aaj Kal」「Tamasha」などのImtiaz Ali (イムティアズ・アリ)監督はこの映画から少なからぬ影響を受けたというし、Director Anurag Kashyap(アヌラグ・カシュヤップ)監督にいたっては、どこからどう聞いても調子っぱずれとしか言いようのない「Meri Jaan AAA Meri Jaan BBB」から
こんな曲やステージングを思いついてしまったという。
さすがゲージュツカは色んなものから色んなアイディアを取り込んで消化してしまうんだなぁと、妙に感心する次第である。
にしても、なんであんなに美しい湖があって、山があって、砂漠があるのに……誰もプシュカルで映画を撮らないのが、不思議で仕方がない。
Ajmer (Rajasthan)
Pushkar (Rajasthan)
この映画が観られるサイト:
https://einthusan.tv/movie/watch/4Sae/?lang=hindi#
Life of Pi トラと漂流した227日
アメリカ・英語映画「Life of Pi」(2012)
邦題「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」
配役:
"Pi" ことPiscine Molitor Patel役:Suraj Sharma
成人したPiscine Molitor Patel役:Irrfan Khan
カナダ人小説家Yann Martel役:Rafe Spall
"Pi" の母親Gita Patel役:Tabu
"Pi" の父親Santosh Patel役:Adil Hussain
料理人役:Gérard Depardieu
幸せな仏教徒役:Wang Po-chieh
"Pi" のガールフレンドAnand役:Shravanthi Sainath
神父役:Andrea Di Stefano
ネタバレしない程度のさっぱりしたあらすじ:
「話を聞けば神を信じる」と言われ、インド人の”Pi(パイ)”ことPiscine Molitor Patel(イルファン・カーン)を小説家ヤン・マーテルが訪ねるところから映画ははじまる。
元フランスの植民地で現在は連邦直轄地域となっている、インドのポンディシェリで育ったPiは泳ぎや楽器が得意な少年だった。
動物園を営む両親と兄と暮らしていたが、補助金の打ち切りを期に動物園をたたみ、貨物船で移住先のカナダへ。
しかし、太平洋のマリアナ海溝北上中に海難事故に遭い、16歳のPiはオランウータン、ハイエナ、シマウマ、「Richard Parker」という名前のベンガルトラとともに救命ボートで広大な海をさまようことになる。
小僧的視点:
2001年に発表されたカナダ人小説家ヤン・マーテルの「パイの物語」が原作、監督は台湾の李安(アン・リー)、主な役者陣はインド人、そして配給はアメリカ合衆国。
「16歳である日突然孤児になり、猛獣のトラとともに227日漂流した男」が、ひょうひょうとしていい感じにチカラの抜けているIrrfan Khan(イルファン・カーン)で、妙に納得する。その人の持つ雰囲気そのものだから、これを演技で醸し出すのは不可能に近い。キャスティングの勝利といえよう。
Piは年代に合わせてIrrfan Khanを含めた合計4名の役者が担っている。漂流中のPiを演じたSuraj Sharma(スーラジ・シャルマ)は当時哲学科の学生(今もニューヨーク大学で勉強中)だったが、その後も演技の世界で活躍しており、最近では「Phillauri (2017)」でAnushka Sharma扮する木の妖精の相手役(って言っていいのか?)をつとめ、ボリウッドデビューもしている。
この映画、わくわくが止まらない。
子供の時に読んだジュール・ヴェルヌの「Le tour du monde en quatre-vingt jours(邦題:八十日間世界一周)」くらいのわくわく。
会う人会う人にこの映画のあらすじというかディテールを話し、
「わかった、わかった、ハイハイ」
軽くあしらわれて、いなされるくらい楽しかった(←どんな程度だ?)
Piは各種宗教が入り混じるポンディシェリ育ちだったこともあり、ヒンドゥー教とキリスト教とイスラム教とを同時に信じていて、イスラム式礼拝をしているかと思ったら
「洗礼を受けたい」
などと言い出す始末。
「ヲイヲイ、イスラム教は改宗出来ないはずなんだけど……」
私の心配とは別に、父親からは
「色んなものを同時に信じるということは、結局何も信じていないのと同じこと」
と言われていた。
この場面を観た時、「あれ? もしかして?」ふと思ったのだ。
イスラム教でもユダヤ教でもキリスト教でも、宗教とはそこに至る方法でしかなく、つまるところ神(真理)はどれも全部同じなんじゃないのか? ということに、私はイスラエルとパレスチナを旅してようやっと気付いたのだが、Piは10歳やそこらですでに気付いていたのかもしれないと。
その証拠に、漂流中にたびたび
「僕に命を与えてくれてありがとうございます」
神と対話するシーンがあったが、その時に唱えていたのは「アッラー」でも「クリシュナ」でも「イエズス」でもなく、「神」だった。
なかなかあなどれない輩である。
Piの父も母も兄もみんな寝ている間に水没してしまったのだが、なぜPiだけが助かったのかといえば好奇心丸出しの回遊好きだったからである。
「嵐が来てるよ、見に行こうよ!」
寝ている兄を誘ったのにすげなく断られ、Piはひとりで甲板に出る。そこで船が座礁していることを誰よりも早く知り、一度は家族を助けるべくほぼ水没しているバースまで泳いで行っているのだがどうしようもなく、救命ボートに落っこちることになる。
嵐が来ている時にその様子をわざわざ見に行っては波にさらわれたり、水路で水に流されて亡くなったというニュースを年に何回か耳にする。
「決して見に行ったりしないでください」
テレビからの呼び掛けもある。
「なんで、嵐の時にわざわざ見に行く?」
思う反面、それでも見に行きたい気持ちというのを私は密かに理解できるのである。
ましてや生まれてはじめて乗った、貨物船の上での嵐。普段、家にいる時とはまったく違う状況のはずだ。
臆病者の私はその気持ちを抑えて水没する組であるが、ここでPiが甲板に出てはしゃぐから冒険的わくわくがいやがおうにも高まってしまう。
じゃぁ、あの時水没して一瞬で御陀仏だったのと、トラに怯えつつ飢えと孤独と戦って227日漂流するのとどっちが楽だったかというのは、また違う話。
幸せで何の不自由も悩みもなく過ごす一生と、いろんな学びを通して辛いことも悲しいことも乗り越える一生。魂の磨かれっぷりは後者の方がハンパないに決まっている。
救命ボートのところで、印象的だったシーンがひとつある。
幻想的だったクジラの場面でも、嵐の場面でもなく、船酔いの場面。あまりに波が高くて船が揺れるのでぐったりしているRichard ParkerにPiは何度も
「ごめんね、揺れちゃて」
と謝るのである。Piはかなりヘンな子供ではあるけれど、インド人なのである。めったに「ごめん」なんて言わないインド人なのに、船が揺れて自分ではどうしようもないのに、自分はちっとも悪くなんかないのに謝っちゃうのである。
どれだけRichard ParkerとPiの距離が、友達というより家族の領域まで近くなっているのかが読み取れる一瞬だ。Richard Parkerがほぼ死ぬ寸前に頭をヒザに乗せるあのシーンよりも、ずっとよく伝わってくる。
スキさえあらば襲い掛かろうとする猛獣と漂流するのは怖すぎる。
なかなか魚が釣れず、空腹のあまりRichard Parkerがたまらず海に飛び込んだはいいが、船に戻れなくなった時
「しめた! ここで突き放すチャンスだ! これからはちっちゃな筏ではなくて船で寝られるようになる」
思ったのに、結局Piは突き放すことが出来なかった。「あーあ……」観ている私は少々がっかりしたのだけれど、後に「Richard Parkerがいてくれたから、この試練が乗り切れたんだと思う」とPiの語りがあって、孤独というものの恐ろしさを知った。
よく、離婚して苦労してオンナでひとつで子供を育て上げたお母さんが
「この子が居てくれたから、私はやって来られた」
とか言っているのを聞き、「んー、そうなの? 子供が居なくて独り身だった方がよっぽど楽にやって来られたんじゃないの?」とか考えてもみるわけであるが、同じようなことなのかもしれない。
メキシコの海岸に漂着した後、振り返って”さよなら”がわりの別れの一瞥をするだろうと期待していたのに、Richard Parkerがそのまままっすぐ進み、振り返りもせずにどこかへ立ち去ってしまったことをPiは少なからず寂しく感じていた。
別れ際に振り返るかどうかを私も確かめてしまうクチだし、この気持ちはとてもよくわかる。
が、そういうPi本人はガールフレンドのAnandに、さよならをいわずにカナダに旅立ったのである。
「結局生きることは手放すことだ。一番切ないのは別れを言えずに終わることだ」
Piのこの台詞は多方面に深いのである。
撮影は主にインドと台湾にて、ニュージーランドもちょっとだけ。
後半、なぜか画面が真っ黒で音だけ鳴る……。
Botanical Gardens (Pondicherry)
Pondicherryには動物園というものが(昔はあったけれど、それ以降)ないので、この植物園を動物園に改造して撮影が行われた。
Pondicherry pier (Pondicherry)
カナダへ発つ前、ガールフレンドAnandとの最後のデート場所
Arulmigu Kokilambigai Vudanurai Thirukameswarar Thirukovil (Pondicherry)
名前があまりにも長くて寿限無状態。Villianurというところにあるので、「Villianur Temple」とも呼ばれている1000年以上の歴史をもつヒンズー教寺院。
政府からガッチリと許可を取り、数えきれないほどのろうそくを一晩中灯し、祭りの風景を作り出して撮影。
Muslim quarter (Pondicherry)
イスラム教に興味をもち、礼拝中に入っていくモスクはこの界隈に。
Munnar hill station (Kerala )
家族で旅行(キャンプ)に行き、キリスト教という宗教と巡り合った場所。茶畑が美しい。
墾丁国家森林遊楽区 (屏東縣恆春鎮)
人食い島のシーンはここ。
場所の設定は屏東出身の李監督ならでは。国家公園内に手つかずのベンガルボダイジュ林があることを知っていたのだとか。
水湳空港 (台中)
ロケ地というより、スタジオというかセットだが、海のシーンはすべてここで。
今台中にある国際空港ではなく、昔の飛行場に各種の波を再現できる装置を備えた超大型(長さ70m、幅30m、深さ4m)の撮影用タンクを設置、空や水の動きはCGで。
この映画が観られるサイト:
Life of Pi (2012) full movie, eng. subs
¥100円でレンタル可